お役立ちコラム お墓の色々

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庵治石の特徴「斑(ふ)」とは?模様の成り立ちと魅力を解説

墓地・墓石コラム

庵治石(あじいし)は、墓石や石彫刻などで名前を見聞きすることのある石材です。

別名「花崗岩(かこうがん)のダイヤモンド」とも呼ばれる庵治石には、石肌を磨くことによって現れる独特の模様「斑(ふ)」という、他の石材には見られない特徴があります。

今回は、庵治石最大の特徴である「斑」に焦点をあて、その成り立ちや見え方、人々を惹きつける魅力について解説します。

庵治石とはどんな石?

庵治石の歴史

庵治石は、およそ6500万年〜1億年前の白亜紀後期に形成されたとされる石材です。

高温のマグマが長い時間をかけて冷え固まり、結晶化した後、地殻変動によって地表に現れたと考えられています。

また、庵治石は平安時代後期から、香川県高松市の庵治町・牟礼町(むれちょう)周辺で採掘されてきたといわれています。

その歴史はおよそ千年に及び、長い年月にわたって人々の暮らしの中で使われてきました。

庵治石の分類

庵治石の正式名称は「黒雲母細粒花崗閃緑岩(くろうんもさいりゅうかこうせんりょくがん)といいます。

岩石の分類では、庵治石は火成岩に属し、その中でも地下深くでゆっくりと冷え固まった深成岩の一種です。

一般に知られている「花崗岩」と同じ系統の石材で、学術的には花崗閃緑岩にあたります。

花崗閃緑岩とは、花崗岩と構造や組織がよく似た閃緑岩との中間的な性質を持つ岩石のことを指し、日本で採掘される石の多くは、花崗岩ではなく花崗閃緑岩に分類されます。

花崗閃緑岩は、主に次のような鉱物で構成されています。

・石英(せきえい):酸素とケイ素からなる鉱物。摩耗(まもう)に強く、風化に耐える性質を持つ

・長石(ちょうせき):カリウム・ナトリウム・カルシウムなどを含む箱形をした鉱物。ガラスのような光沢を持つ

・雲母(うんも):ミルフィーユのような層になっており、薄く剥がれる性質を持つ、やわらかい鉱物。耐熱性があり、電気をとおしにくい性質も持つ。庵治石には、雲母の中でも鉄分が含まれ黒っぽい色をした黒雲母が多く含有されている

さらに、これらを含む結晶の粒子の大きさで、次の分類に分けられます。

・細目(こまめ)

・中細目(ちゅうこまめ)

・中目(ちゅうめ)

中でも細目は結晶が非常に細かく、この結晶の細かさが、斑が現れやすい要因のひとつとも考えられています。

庵治石の特徴や価格については、こちらの記事で詳しくご紹介しています。

庵治石とは?墓石の最高級とされる庵治石の価格相場などを紹介

花崗岩と御影石については、こちらの記事で詳しくご紹介しています。

花崗岩と御影石の違いや墓石としての特徴など

庵治石最大の特徴「斑(ふ)」

庵治石の最大の特徴は、石肌を磨くことで表面に現れる、まだらで濃淡のある模様「斑(ふ)」です。

斑は、磨きを重ねるほど石の表面に浮かび上がるように現れ、細かな濃淡が重なった、独特のかすり模様をつくり出します。

光の当たり方によって表情が変わり、石に奥行きのある印象を与えるのも特徴です。

指先で押さえたような、湿り気や潤いを帯びたまだら模様が現れる様子を、「斑が浮く」と表現します。

斑は庵治石に必ずしも現れるものではありません。細目の庵治石が最も斑が出やすいとされていますが、中細目、中目でも出現する場合があります。

また、サビ石と言われる茶色の庵治石には、まれに「赤斑」と呼ばれる錆色の斑が浮くもののもあります。

同じ庵治石であっても、斑の現れ方は一つとして同じものがなく、石ごとに異なる表情を見せる点も斑の魅力のひとつであり、この斑の模様で石の価格が変わることもあります。

斑は学術上、黒雲母の集合体によるものと考えられていますが、なぜその集合体が庵治石の一部にだけ現れるのかについては、現在も明確には解明されていません。

斑には地元にいくつかの言い伝えがあります。

その中でも有名なものを紹介すると

・源平合戦で屋島の桜が吹雪となり、庵治石を包んで斑に姿を変え、美しく咲いている

・源平合戦で屋島の神仏が平家を哀れみ、桜の花びらを舞い散らせて庵治石に映し出した

等といわれ、その他の言い伝えの多くも、今から約850年前この地が戦場になった源平合戦に由来するといわれます。

なぜ庵治石は墓石で使われるのか?

吸水しづらく、風化に強く、硬い

石が風化する大きな原因のひとつは、結晶のすき間に入り込んだ水が、凍結と融解を繰り返すことによって石が傷んでいくことです。

 一般的な花崗岩は、性質の異なる結晶が集まってできているため、結晶の間にすき間が生じやすく、そこから水が入り込みやすいとされています。

 一方、庵治石は結晶の粒子が非常に細かく、結合が緻密な石材です。そのため、結晶の膨張や収縮が小さく、水の浸透率も低く抑えられています。結果として、水を吸いにくく、風化しにくい性質を持っています。

また、庵治石に含まれる黒雲母は鉄分の含有量が少ないため、サビによる変色が起こりにくい点も特徴です。

さらに、結晶同士の結びつきが強いことから、庵治石は他の花崗岩と比べて硬度が高く、外部からの衝撃にも強い石とされています。

繊細な細工が可能

庵治石は硬度が高く、かつ結晶が緻密で細やかな石質を持ち、剛性に加え高い衝撃強度を併せ持つ稀有な石です。

そのため加工には高度な技術が必要とされますが、細部まで精度の高い加工が可能です。

刻んだ文字がはっきりと読みやすく仕上がることから、古くから墓石材や石灯籠など、細工を施す石彫刻に用いられてきました。

墓石で使われる御影石については、こちらの記事でご紹介しています。

お墓に使われる『御影石』ってどんな石?

墓石の種類や特徴については、こちらの記事でご紹介しています。

一般的な墓石の種類や特徴を解説します

墓石以外での庵治石の活用例

庵治石の用途は、墓石や石彫刻だけに限られているわけではありません。

建築材をはじめ、什器やインテリアなど、さまざまな分野で使用されています。

また、庵治石を原料として溶かし、加工したガラス製品も製作・販売されています。

実際に高松城や大阪城といった歴史的建造物のほか、六本木ヒルズや首相官邸などの建築物にも庵治石が用いられています。

国内で採掘される石材であることから、国産材として活用されている点も特徴のひとつです。

彫刻家イサム・ノグチと庵治石

庵治石は、20世紀を代表する彫刻家イサム・ノグチが愛用した石材のひとつとしても知られています。

イサム・ノグチは1956年に初めて香川県高松市の牟礼町を訪れ、その後1969年に、同地にアトリエと住居を構えました。

現在、このアトリエと住居は「イサム・ノグチ庭園美術館」として一般公開されています。

まとめ

庵治石は、長い年月をかけて形成され、時代を超えて使われ続けてきた石材です。

庵治石最大の特徴である斑は、石に表情と奥行きを与え、長い時間を経ても人々の目を惹きつけてきました。

その成り立ちや石質、産地、使われ方を知ることで、墓石を見る目も、少し変わってくるのではないでしょうか。

お墓は、単なる石ではなく、そこに手を合わせる人の思いや時間が重なってできあがる場所です。どのような石が使われ、どのように形づくられてきたのかを知ることは、故人や家族の歴史に思いを向けるきっかけにもなります。

この機会に、身近なお墓を訪れ、石の表情や刻まれた文字に、静かに目を向けてみてください。お墓参りを通して、亡くなった方を偲ぶ大切なひとときを過ごしてみてはいかがでしょうか。

お墓参りについては、こちらの記事でご紹介しています。