お役立ちコラム お墓の色々
お役立ちコラム お墓の色々
- 供養をきわめる -
長い歴史の中で、お墓の形状や墓石はどう変わってきた?

お墓は私たちにとって心のよりどころのひとつです。日々の暮らしの中に自然と根づき、お盆やお彼岸には、故人やご先祖様を偲んで墓前に手を合わせる方も多いのではないでしょうか。
こうしたお墓は、今の世代から次の世代へ、そしてそのまた先の世代へと代々受け継がれていく存在です。しかしお墓はいつ頃から建てられるようになったのでしょうか。また現在私たちが目にするお墓の形は、どのような過程を経て定着したのでしょうか。
今回はお墓の成り立ちから今日に至るまでの歴史をたどってみたいと思います。
お墓が持つ意味や役割
昔から人々は亡くなった人のためにお墓を築いてきましたが、「なぜお墓を建てるのか」と改めて考えたことはあまりないかもしれません。お墓が持つ意味や役割をひもときながら、その背景について考えていきます。
お墓とはかけがえのない存在
お墓を建てる理由は、家族や親族が集い、手を合わせる場所を残したいという思いにあります。故人を偲ぶ時間や気持ちを整理する拠りどころがあることで、節目ごとに心を落ち着かせることができます。想いや家族の歴史を形として引き継いでいくためだと考えられ、こうした思想が「お墓を建てて供養する」という習慣を根づかせたのです。
時代とともに変化するお墓のかたち
現在のような墓石を用いたお墓が一般化したのは、江戸時代中期以降といわれています。それ以前、人々はどのように亡き人を弔っていたのでしょうか。
日本最古級のお墓とされる遺構は、北海道で発掘され、旧石器時代のものとして国の重要文化財にも指定されています。縄文時代には火葬は行われず、遺体をそのまま土に埋葬する土葬が一般的でした。中には、大きな石を遺体の上に置いて埋葬した例もあったといわれています。
現代のお墓文化に通じる遺跡として、青森市の縄文時代の集落跡「三内丸山遺跡」があります。調査の結果、道路沿いに大人と子どもの墓が分けて埋葬されていたことがわかりました。
また、その近辺からは木の実や魚の骨、花などが出土しており、お供え物ではないかと推測されています。つまり、太古の縄文時代から、死者を大切に埋葬する文化が存在していたと考えられます。
各地に残る古墳は、天皇や豪族といった身分の高い人々の墓です。なかでも仁徳天皇陵に代表される前方後円墳は、日本のお墓文化を象徴する存在といえます。一方、一般庶民の間では「人は土に還るもの」という考えが基本で、平安時代ごろまでは、自然の中に遺体を委ねる風葬が主流でした。
やがて「風葬から土葬へ」と移り変わるなかで、石や樹木を墓標としてその下に遺体を埋葬する形が生まれます。江戸時代に生まれたこの埋葬方法が現在のお墓の原型と考えられています。
火葬の普及と現代のお墓
大正時代になると、墓地不足を背景に土葬から火葬への移行が進みました。火葬が一般化した大正時代から昭和初期にかけて、墓石を建てて遺骨を納める形式が広く定着していきました。
この時代には、寺院墓地や公営墓地に加え、郊外に広がる公園墓地も誕生しました。緑に囲まれた環境は、都市部に暮らす人々からも支持を集めたといわれています。
選択肢の増えた現代のお墓
現代では寿陵(じゅりょう)墓と呼ばれるお墓を建てる人も増えています。寿陵墓とは、いわゆる生前墓のことで、仏教では「寿陵」と呼ばれています。生きているうちにお墓を建てると聞くと、縁起が悪いのではないかと心配になる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、寿陵は仏教において「長寿」「子孫繁栄」「家庭円満」を授かる縁起の良いものとされ、日本でも古くから行われてきました。寿陵墓が選ばれる理由には、家族の負担を減らしたい、自分の好きなデザインにしたい、節税につながるなど、さまざまな背景があります。
また、散骨・樹木葬・納骨堂・永代供養墓など、供養の選択肢は大きく広がりました。
新たにお墓を建てるのも、ご先祖様と同じお墓に入るのも、あるいはお墓を持たない選択をするのも自由ですが、選択肢が多い今だからこそ、自分自身の最期や供養のあり方について、生前から考えておくことが大切なのかもしれません。
ただし、お墓づくりは自分だけの問題ではありません。家族や親族と相談しながら決めることが大切です。
墓石の変遷
お墓の変遷に合わせて墓石のかたちや役割も時代とともに変化してきました。ここでは、各時代に見られる墓石の特徴をたどってみましょう。
縄文時代〜鎌倉時代の墓石
縄文時代には、遺体を折り曲げて埋葬する「屈葬」が行われ、埋葬した場所の上に大きな石を置く例が見られます。現在のように墓石を用いたお墓を建てる文化は、仏教の伝来とともに日本へ伝わったものとされています。平安時代には、上流階級の墓所に五輪塔や多宝塔、宝篋印塔といった仏教的意匠をもつ墓石が建てられるようになりました。
さらに、鎌倉時代から室町時代にかけては、位牌や戒名の文化が広まり、角柱型の墓石や位牌に似た板碑など、現代のお墓に近い形式が登場していきます。
江戸時代〜明治時代の墓石
江戸時代には檀家制度の確立によって、墓石を用いたお墓を建てる習慣が一部の武家や庶民の間に広まりました。江戸時代後期には、位の低い武士や裕福な庶民にも墓石が広まりましたが、一般庶民の多くは卒塔婆が主流でした。
この時代のお墓は、故人一人ひとりに戒名を刻んだ個人墓や、夫婦墓が主流でしたが、明治時代に入ると家制度が定着し、お墓の考え方にも変化が生じます。家を単位として墓石を建てることが一般的となり、「○○家先祖代々之墓」と刻まれた現在につながる形式が広く見られるようになりました。
現代の墓石
現代ではお墓の形や考え方が多様化していますが、墓石にも一定の傾向が見られます。近年主流となっているのが、耐久性に優れた御影石の墓石です。御影石のお墓が一般的になったのは、ここ50年ほどのことといわれています。
それ以前は、各地で採石される軟石などが墓石によく用いられていました。加工しやすく比較的軽い反面、石質が柔らかく、震災などの際に多くの墓石が倒壊し破損してしまうという事が起きてしまったため、より丈夫な御影石へと移行が進みました。
現在の墓石は、江戸時代から続く縦型の和型墓石を基本としつつ、横に広がる洋型墓石を選ぶ人も増えています。霊園によっては、洋型墓石が全体の8割以上を占めるケースもあります。その背景には、従来の和型に比べ耐震面で安心感があること、背が低く開放感があること、自由度の高いデザインが可能なことなどが挙げられます。
さらに和型墓石では、刻む文字が社会通念上、念仏や家名に限られることが多いのに対し、洋型墓石では宗教や形式に縛られず、自由な言葉やメッセージを刻みやすいです。
多様な種類の中から自分好みの石の色や種類を選べる点も、現代ならではの墓石の在り方といえるでしょう。
なぜ墓石には石材を使用するのか
お墓に石材が用いられてきた理由には、大きく分けて三つの背景があるとされています。ここでは、それぞれの意味合いを順に見ていきましょう。
耐久性に優れ、時代を超えて受け継ぐことができる
お墓は、先祖から子孫へと命の歩みをつなぐ存在です。その役割を果たすため、長い年月に耐えうる石材が選ばれてきたと考えられています。
お墓は、数十年ではなく、場合によっては何百年もの間受け継がれるものです。風化しやすい素材では、その役目を十分に果たせなかったのでしょう。
また、かつては土葬が主流であったため、埋葬した場所が動物に荒らされることもありました。そうした状況から、簡単に動かせない重く頑丈な石材が、お墓の材料として適していたといえます。
古代から石に宿る神聖な意味
石は古くから、神秘性や神聖さを備えた存在として捉えられてきました。そのため、死者を弔う場であるお墓にも、ふさわしい素材と考えられたのでしょう。
日本最古の歴史書『古事記』には、伊邪那岐命(イザナギノミコト)と伊邪那美命(イザナミノミコト)が別れる際、黄泉の国と現世を隔てるために「千引の岩(ちびきのいわ)」と呼ばれる大きな石を用いたという記述があります。この伝承が、お墓に石が用いられるようになった起源ではないかとする説もあります。
大地のぬくもりを感じる自然素材として
石は大地から生まれた自然の素材であり、そのぬくもりを感じられる墓標として選ばれたともいわれています。人は自然の一部として生まれ、やがて再び自然へと還っていきます。
そうした生命の循環の中で故人を弔うために、地球そのものを感じさせる石が、最もふさわしい素材だと考えられたのかもしれません。
まとめ
日本のお墓の歴史は、およそ一万五千年前の縄文時代にまでさかのぼるといわれています。長い年月の中で、人々は亡き人をどのように弔い、どのように見送るかを模索し続けてきました。そして江戸時代には、今日につながるお墓の原型が形づくられたのです。
時代が移り変わるにつれて、埋葬の方法や供養のかたちは大きく変化してきました。土葬から火葬へ、自然に還す弔いから墓石を建てる供養へと、その姿は多様に変わってきたのです。
しかし、どれほど形や方法が変わったとしても、本当に大切なものは変わりません。それは、故人やご先祖様を思い、静かに手を合わせる目に見えない心のぬくもりです。お墓は単なる建造物ではなく、残された人が想いを寄せ、感謝や祈りを伝えるための場所といえるでしょう。
これから先、お墓のあり方は、現代の多様で自由な価値観を反映しながら、さらに姿を変えていくでしょう。
それでも、故人の生前の面影を偲び、ご先祖様への感謝を胸に家族揃ってお墓の前で手を合わせる時間は、変わらず大切にしていきたいものです。
お墓を介して、はるか遠いご先祖さまとの“しあわせの交換”を続けていただければと願います。
現在増えている生前墓についての記事や、今のお墓の形はどんなものがあるかの記事もございます。あわせてご覧ください。