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湯灌の儀とは?意味や歴史、流れについて解説します

葬祭基礎知識

湯灌の儀とは?意味や歴史、流れについて解説します

「湯灌(ゆかん)の儀」は、葬儀の前に故人のお体を洗い清める儀式です。故人にとって人生最期の入浴ともいえるもので、旅立ちの準備を整える儀式として、日本各地で古くから行われてきました。

2008年には、映画「おくりびと」が公開され、納棺師・湯灌師といった、故人を棺に納めるまでの儀式を執り行うプロの存在や役割が注目されるようになりました。
とはいえ、湯灌の儀に立ち会うのは、基本的に近親者のみであり、湯灌を行わずに納棺されることも多いため、儀式の具体的な内容については、ご存知ない方も少なくないのではないでしょうか。

今回は、この湯灌の儀について、意味や歴史、儀式の流れや、執り行う場合の費用などについて解説していきます。

湯灌とは

「湯灌(ゆかん)」とは、「湯灌の儀」とも言われ、納棺の前に、故人のお体をお湯で洗い清める儀式のことです。「湯灌」は仏式での名称ですが、神式の場合も「沐浴(もくよく)」と呼んで、同じように、納棺の前にご遺体を清める儀式があります。

湯灌の目的

湯灌は、故人が安らかに旅立てるよう、この世の穢れを祓い、苦しみを清めるという意味を込めて昔から行われてきました。また、ご遺体を清潔に保つ、温めることで死後硬直をやわらげて納棺しやすくするという目的もあります。

その他、お風呂好きだった方や闘病生活などでお風呂に入れなかった方のために、人生最後の入浴をさせてあげたいということで施される場合もあります。故人を丁寧にケアし、きれいにして見送ることは、故人の尊厳を守ることにもなり、残された遺族の悲しみを癒やし慰める、グリーフケアの役割も担っています。

グリーフケアについてはこちらで詳しく解説しています
グリーフケア・遺族ケアとは?意味や悲しみに寄り添う方法を解説します

湯灌の種類

湯灌の方法は、大きく2種類に分けられます。

通常の湯灌…湯船やシャワーで洗い清める方法で、「普通湯灌」や「洗体湯灌」、「シャワー湯灌」と呼ばれることもあります。

古式湯灌…浴槽に入れずに、布やアルコール綿などで拭き清める方法です。病院などでご遺体をきれいにするために行う清拭(せいしき)と似ていますが、古式湯灌はお清めやお別れの儀式として行われる点に違いがあります。

一般的にはこのように分けられますが、葬儀社によって名称や細かな内容が変わることもあるので、事前によく確認すると良いでしょう。

由来や歴史

日本には昔から、知らず知らずのうちに犯してしまったであろう罪や心身の穢れを、海や川の水ですすぎ清めるという風習があります。
古くは、養老4年(720年)に完成したとされる日本書紀に、天皇が沐浴によって身を清めたとの表記があり、当時は「ゆかはあみ」と呼ばれていたことから、これが湯灌(ゆかん)の語源になったのではないかと考えられています。

また、古代インドで国王が即位する際に海水を頭頂に灌いだ(そそいだ)という灌頂(かんじょう)の儀式や、中国で遺体を洗い清めた儀礼などが、仏教とともに日本に伝来したとも言われています。

日本では、天台宗の開祖である最澄が、空海の弟子となる際に初めて灌頂を行い、空海が本格化させたと伝えられています。
平安時代には、納棺前のご遺体に水をかける現代の湯灌の形式が形作られ、江戸時代には、全国で行われていたようで、地域によって独自の作法も作られていきました。

水で心身を清めるという日本古来の風習と、日本に伝来した仏教儀式が融合し、故人の安らかな旅立ちを願う湯灌の儀式となっていったようです。

湯灌を行う場所

湯灌は、葬儀場や自宅で行います。葬儀場に湯灌の設備が用意されていることもありますし、設備がない場所や自宅で行う場合には、移動式の湯舟を使用するのが一般的です。

湯灌を行う人・立ち会いについて

かつては家族など近しい人達で行われていましたが、精神的にも身体的にも負担が大きいため、現在では葬儀社のスタッフや、湯灌師、納棺師といったプロに依頼し、故人の家族や兄弟といった近親者は立ち会うという形が一般的となっています。
なお、湯灌の立ち合いは必須ではないので、立ち合いなしで湯灌が進められるケースもあります。ご遺体を見るのが辛いと感じる人もいるため、立ち会うかどうかは本人の意思を尊重するのが良いでしょう。

湯灌に立ち会う際の服装は、喪服でなく平服で構いませんが、お通夜まで時間がない場合や遠方から喪服で来られている場合には、喪服でも問題ありません。

湯灌の儀の流れ

湯灌を行うタイミングに決まりはありませんが、納棺前のタイミングで行われることが多く、故人の身なりを整えた後に納棺へと進みます。
ここでは、浴槽を使った通常の湯灌を行う場合の、一般的な流れをご紹介します。

準備と口上(流れの説明)

まず専門のスタッフが、浴槽などの準備をします。衣服を脱がせてご遺体の状態を確認した後、硬直をほぐすように全身のマッサージを行い、浴槽へと移動させます。ご遺体には、肌を見せないよう布がかけられますので、立ち会いの際も安心して見守ることができます。
儀式の準備が整ったら、口上といい、湯灌の儀式について説明が行われます。

逆さ水の儀

「逆さ水の儀」とは、ご遺体を清めるための、ぬるま湯を作る儀式です。日常の入浴では、お湯を入れたところに水を足して温度調節をしますが、湯灌の場合はその逆の手順を取り、水を張ったところにお湯を足して適温にしていきます。

この儀式は、弔事に関わる儀式を行う際に、日常とは逆の方法を用いる、「逆さごと」という習慣によるものです。逆さごとは、あの世とこの世を区別し、この世から死者を送り出す意味で古くから行われてきた日本の風習で、逆さ水の他にも、故人の枕を北側において寝かせる「北枕」、死装束の紐を結び目が縦になるように結ぶ「縦結び」などがあります。

遺体のお清め・洗体・洗髪

ぬるま湯の準備ができたら、遺族の立ち合いがある場合には、交代で、足元から胸元へとそのお湯をかけ、ご遺体を清めていきます。
お清めが終わると、専門スタッフがシャワーで全身をやさしく洗い、シャンプーを使った洗髪や、顔剃り・洗顔も行います。
全身がきれいになると、タオルで水分を拭き取り、髪を乾かします。

着替えと化粧

ご遺体をきれいにした後は、着替えと化粧を施します。
死装束など儀式に則った衣装に着替えることが一般的でしたが、故人が愛用していた衣服を用いるケースも増えています。
着替えが終わると、顔色が良く見えるよう化粧を施し、髪型など身なりを整えていきます。故人が愛用していた化粧品を使用できる場合もあるので、事前にスタッフに相談してみると良いでしょう。

納棺

身なりを整えたら、ご遺体を納棺します。納棺の際に、家族以外の近しい人が立ち会うケースもあるようです。

依頼方法と費用

湯灌は、葬儀社に依頼するのが一般的です。葬儀社の中に湯灌師や納棺師がスタッフとして働いているケースや、提携している業者に依頼してくれるケースなどがあります。
費用は、葬儀社によって異なります。入浴をせず、ご遺体を拭き清める古式湯灌のみの場合は5万円前後、入浴から納棺まで行う場合は8〜10万円前後と言われていますが、プランの設定により内容も金額も様々なので、事前に詳しく確認しながら決めていくと良いでしょう。

まとめ

湯灌は、故人のご遺体を洗い清める儀式であり、来世への安らかな旅立ちを祈る供養の形です。近年、葬儀が簡略化される傾向にある中で、家族で心を込めて故人を見送ってあげたいという理由で湯灌を行うケースも増えているようです。ご遺族ご自身で入浴させてあげることは難しいですが、故人を清める場面に立ち会い、最期の時間を大切に過ごすことは、遺族が故人の死を受け止め、悲しみを癒すことにもつながっていきます。

これをきっかけに、大切な人をどのように見送りたいか、自身はどのように見送ってほしいか、また、どのように弔っていくのかなど、葬儀のことだけではなく、お墓・お墓参りといった後々の供養のこともあわせて、ご家族で話し合ってみてはいかがでしょうか。

故人のご遺体を整えるエンゼルケアとの違いや、葬儀の準備などについてもまとめていますので、併せてお読みください。
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