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死化粧など故人の姿を整えるエンゼルケアとは?湯灌やエンバーミングとの違い

葬祭基礎知識

死化粧など故人の姿を整えるエンゼルケアとは?湯灌やエンバーミングとの違い

大切な人が亡くなった時、見送る際にはできるだけきれいな姿にしてあげたいと思う方は少なくないと思います。少しでも生前に近い姿でご遺体を安置し心安らかに見送るためには、衛生面と合わせて見た目の美しさに配慮することも大切です。けれども現代では、家で亡くなることは少なく、ご遺体の処置は、病院や施設で家族が立ち会わずに行われるケースも増えているため、その処置をどのように行なっていくのか、ご存知ない方も多いのではないでしょうか。

故人が亡くなってから納棺までに、ご遺体をできるだけ安らかで外見が美しく見えるよう整える方法として、「エンゼルケア」「湯灌(ゆかん)」「エンバーミング」と呼ばれる方法があります。どれもご遺体を整えるために行われることですが、目的と行う内容が異なります。
今回はそれぞれの特徴や手順、違いについて紹介していきます。

エンゼルケアとは

故人が少しでも生前に近い姿になるよう整える、死後処置や死化粧などをまとめて、「エンゼルケア」と呼びます。

「エンゼルケア」には、明確な定義や法律による決まりはありません。そのため、病院の方針・ご本人の遺志・ご家族の希望や宗教的な慣習などを考慮して、処置が行われます。
また、エンゼルケアのための特別な資格も必要ないため、亡くなった場所やケアの内容によって、行う人も様々です。病院で亡くなった場合は主に看護師が行い、特別な処置が必要な場合は医師が行います。また、エンゼルケアを行っていない病院や介護施設、自宅で亡くなった場合には、葬儀社のスタッフや納棺師、介護施設の職員が行う場合もあります。
さらに、一部のケアについては、葬儀社のスタッフなどのサポートを受けながらご家族で行えるものもあります。

エンゼルケアの目的

エンゼルケアには、衛生面や心理的なケアに関わる、次のような目的があります。

感染の予防

ご遺体は、時間の経過とともに腐敗が進み、感染症のリスクもあるため、体液の流出を防いだり、傷がある部分を修復したりといった衛生面での処置が重要とされています。

ご遺体を整える

人が亡くなるときは、ご遺体が清潔でない状態なこともありますし、点滴などの医療器具が取り付けられていたり怪我をしていたりというケースもあります。そのような場合に、医療器具の取り外しや傷の手当て、身体を拭いて清潔にするなど、闘病や死によって変化したご遺体に苦しみの跡が残らないよう、きれいな状態に整えることもエンゼルケアの目的です。

故人の尊厳を守る

エンゼルケアには、故人が、旅立ちに際して行うであろうケアを、本人に代わって行うという意味もあり、少しでも元気な時の姿に近づけ、身だしなみを整えることは、故人の人格や尊厳を保つためにも大切にされています。

ご家族の心理的ケア

エンゼルケアには、残された人の悲しみに寄り添う心のケアである、グリーフケアの側面もあります。残された家族は、死をすぐに受け入れるのが難しいこともありますが、最後にケアをしてあげること、安らかなお顔を見られることが、大切な人の死を受け入れ、悲しみから立ち直るきっかけにもなるのです。

エンゼルケアの流れ

前述のように、エンゼルケアに明確な定義や法律による決まりはなく、病院の方針・ご本人の遺志・ご家族の希望や宗教的な慣習などを考慮して処置が行われるため、その内容は場合によって差がありますが、一般的には以下のような流れで行われています。

末期(まつご)の水

「末期の水」とは、「死に水をとる」とも言われ、故人が飢えや渇きに苦しまないようにとの願いを込めて、故人の口元を水でうるおす、故人との別れの儀式です。医師から臨終を告げられた後に病室で、または自宅や葬儀社に安置された後に行うことが一般的です。

医療器具を外し、傷などの手当てをする

点滴など医療器具をつけている場合は、医師や看護師が取り外し、傷や治療痕が目立たないように手当てをします。この時に、胃の内容物など体液を排出させる処置を行うこともあります。

清拭(せいしき)

全身を拭いて清潔にすることを「清拭(せいしき)」と言います。一般的には、温タオルやアルコールを含ませたガーゼなどで故人の全身を拭き、臭気を防止するために、歯ブラシやガーゼなどを使った口腔ケアも行います。この後、体液の漏出を防ぐため、口、耳、鼻などに脱脂綿を詰める処置を行うこともあります。

着替え

ご遺体をきれいに整えた後は、服を着替えさせます。
以前は病院が用意した浴衣や、死装束、宗派で相応しいとされる服を身に付けさせることが一般的でしたが、最近では故人が気に入っていた衣服を使用する場合も増えています。

死化粧

死化粧とは、故人のお顔が安らかに見えるよう、表情や身だしなみを整えたり化粧を施したりすることで、エンゼルメイクとも言われます。
髪を整えたり爪を切ったりし、髭や産毛を剃り、表情がやつれてれば、頬に膨らみを持たせるために口に綿を含ませることもあります。

湯灌とは

「湯灌(ゆかん)」とは、ぬるま湯でご遺体を洗い清めたり拭き清めたりする儀式のことで、「湯灌の儀」とも呼ばれます。エンゼルケアにおける清拭の代わりに行われることもありますが、お湯を流すだけでなく、死後硬直をほぐすようなマッサージを行ったり、髪をシャンプーで洗ったりもします。

エンゼルケアのように、ご遺体を清潔にし、見た目を整えるだけでなく、この世の穢れ(けがれ)を清め、来世への旅立ちの準備をするという儀式的な意味も込めて行われるのが湯灌の儀です。作法に則って全身を洗い清めたのち、着替えや死化粧を施して身だしなみを整えます。

昔は家族や地域の人で行う習わしがありましたが、現在では専門業者や葬儀社のスタッフが行い、家族は立ち会うだけというのが一般的となっています。湯灌の設備のある葬儀社で行われる場合もありますし、ご自宅などの安置場所に専用の浴槽を持ち込んで行うことも可能です。

エンゼルケアでもご遺体を清潔に整えることができますが、宗教儀式を重視される場合や、闘病生活などでゆっくりお風呂の入れなかった故人を癒してあげたい、故人への感謝を伝えたい、大切な方の死を受け入れる区切りとしたいなどの想いから、湯灌を行うケースも少なくないようです。

エンバーミングとは

「エンバーミング」とは、ご遺体に消毒・殺菌などの防腐処置を施して、修復も行う技術のことで、「遺体衛生保全」とも言います。アメリカ南北戦争の際、兵士の遺体を故郷に帰すために取り入れられたのをきっかけに、土葬文化のある欧米諸国を中心に普及し、日本にも伝わりました。

ご遺体の見た目をきれいに整え、基本的な感染防止の処置を行うことが目的のエンゼルケアに対し、エンバーミングはご遺体に防腐処置を施すことで長く衛生的に保存することが目的です。そのため、洗浄や殺菌、切開や防腐剤の注入、体内に残っているものの除去などの処置を行い、ご遺体に損傷がある場合には、生前に近い姿となるよう修復を行うこともあります。

エンバーミングは、専門の資格をもったエンバーマーが、専門の施設にて行います。ご遺体の処置が済むと、衣服や身だしなみを整え、死化粧や納棺まで行われたのち、葬儀社やご自宅に運ばれるのが一般的です。

火葬までの日数がかかる、大きな災害があった、海外からや海外へなど空輸での搬送が必要といった、長期間ご遺体の状態を保ちたい場合や、個人が感染症で亡くなった場合、安らかなお顔の個人とお別れがしたいという遺族の希望を叶える場合などに利用されています。

ケアの内容や料金について

エンゼルケア・湯灌・エンバーミングの細かな内容やどこまでのケアを行うかについては、行われる病院・施設・葬儀社などによって異なります。
また、病院や施設で行う場合であっても医療保険適用外となるため、費用や料金形態に関しては、各病院や施設・葬儀社に判断が委ねられており、ご遺体の搬送の有無や、ご遺体の状態によっても変動することがあります。

ご遺体のケアについて希望がある場合には、早い段階で病院や施設・葬儀社に問い合わせ、無理なく納得のいく見送りができるよう相談すると良いでしょう。

まとめ

エンゼルケア、湯灌、エンバーミングは、大切な人を見送る際の衛生面での安全を守るとともに、故人の尊厳ある旅立ちや、残された遺族が心を整えていくためにも、大切な行為と言えます。しかし、ご遺体のケアについては、亡くなってから早急に決めなければならず、いざという時には慌ててしまうこともあるでしょう。

死化粧や湯灌などのご遺体をきれいに整える行為は、故人をいたわる気持ちを表すためにも、遺族の手で行われていた時代もあります。故人を見送る際は、遺族が気持ちを整え供養の心を伝えることも大切です。今回の記事を参考に、納得できるケアや供養の形について、考えてみていただけたらと思います。

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