お役立ちコラム お墓の色々

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一度は見ておきたい重要文化財/美術品シリーズ・京都の旅編・その3

供養・埋葬・風習コラム

一度は見ておきたい重要文化財/美術品シリーズ・京都の旅編・その3

日本では、国内にある建造物、美術工芸品、考古資料、歴史資料等の有形文化財の中で、歴史上・芸術上の価値が高いもの、または学術的に価値の高いものを、文化財保護法に基づき重要文化財として指定、保護しています。

全国各地にある石仏や石塔の中にも、重要文化財の指定を受けているものがいくつもあり、その所有者や地域の人々によって、石仏や石塔に込められた想いや由来が語り継がれてきたことで、今もなお私たちに歴史や文化の息吹を感じさせてくれます。

今回は「一度は見ておきたい重要文化財シリーズ」と題し、歴史的価値、学術的価値の高い石仏や石塔をご紹介し、その魅力に迫っていきます。

観光情報も添えていますので、ぜひ実際に足を運んでいただき、その雰囲気を肌で感じ、目で愉しみ、心で歴史に触れてみてはいかがでしょうか?

一度は見ておきたい重要文化財/美術品シリーズ・京都の旅編・その3

高山寺如法経塔(京都府京都市右京区梅ケ畑栂尾(とがのお)町)

「鳥獣人物戯画」、明恵(みょうえ)上人坐像など、多くの文化財を収蔵する寺院として知られ、「古都京都の文化財」として世界遺産にも登録されている高山寺。
その高山寺の境内には明恵上人の墓所である「明恵上人御廟(ごびょう)」があります。
御廟域内の手前左手の一段高くなった所に、宝篋印塔と並んで右側に建っている少し背の低い石塔が今回紹介する如法経塔です。

如法経塔とは

如法経塔とは、如法業という決められた作法に従って写経した法華経などの経文を埋納(如法供養)して建てた供養塔のことを言います。
塔身に、宝形造(ほうぎょうづくり/四角錐状の屋根の造り)の笠と宝珠(ほうじゅ/球状の上部先端が尖った炎のような形状をした部分)で構成されます。形状については、塔身が四角形や円柱形のもの、上部は相輪で構成されているものなど様々です。

特徴

高山寺如法経塔は花崗岩製で、総高1.34mです。基礎の上に四角形の塔身と笠・宝珠のみで構成され、シンプルですが荘重感のある佇まいです。

宝珠は形がよく、すぐ下の露盤と一石で造られています。

笠は締まった軒反(のきぞり)を示し、軒下(軒裏)には垂木型という下向きの段が一重、刻出されています。

塔身正面には「如法経」の三文字が刻まれており、これによって如法供養した法華経を埋納した上に建てられたことが分かる珍しい石塔です。

歴史

高山寺は、奈良時代の宝亀元年(774)に光仁天皇の勅願により開創されたと伝えられています。その後、建永元年(1206)に、僧侶である明恵が、後鳥羽上皇からその土地を与えられ、寺名を高山寺とし他ことから、これが今の高山寺の創立と見なされています。

如法経塔は、鎌倉後期、隣に立つ宝篋印塔と同時代に造られたとされており、1955年2月2日(昭和30.02.02)、宝篋印塔と共に国の重要文化財に指定されました。

高山寺周辺の観光情報

如法経塔の左側に立つ宝篋印塔は国内で最も古い様式と言われるもので、こちらも国の重要文化財に指定されています。また、この如法経塔がある明恵上人御廟の周辺には、寺の長を務めた歴代の僧侶、土宜法龍、土宜覚了、小川義章、葉上照澄の墓もあります。
高山寺周辺は、紅葉を始め四季折々の美しい景色が楽しめる場所としても有名です。高山寺名産の茶葉を味わいつつ、美しい景色と共に、人々の間に受け継がれてきた敬愛の念や供養の思いに触れてみるのも良いのではないでしょうか。

宝篋印塔や高山寺、周辺の情報などについては、こちらの記事にも詳しくご紹介していますので合わせてお読みください。
一度は見ておきたい重要文化財シリーズ・京都の旅編・その2

交通アクセス

栂尾山 高山寺
住所:京都市右京区梅ヶ畑栂尾町8

<バス>
JRバス
・JR京都駅から高雄・京北線「栂ノ尾」「周山」行で約55分、「栂ノ尾」下車徒歩1分。
市バス
・京都市営地下鉄四条駅(四条烏丸)から8系統で約50分、「栂ノ尾」下車徒歩1分。

<自動車>
近畿北部方面:京都縦貫自動車道「園部IC」より約60分
東京・名古屋方面/大阪・神戸方面:名神高速道路「京都南IC」より約50分

一度は見ておきたい重要文化財/美術品シリーズ・京都の旅編・その3

誠心院宝篋印塔(京都市中京区新京極六角下る中筋町487)

「あらざらむ この世の外の 思ひ出に 今ひとたびの 逢ふこともがな」
これは、百人一首にも登場する平安時代の代表的な歌人、和泉式部の歌です。
京都の中心に位置する繁華街である新京極に、真言宗泉涌寺派の寺院「誠心院(せいしんいん)」があります。ここは和泉式部が初代住職であると言われており、ここに残されている宝篋印塔が和泉式部の墓であると伝えられています。

宝篋印塔とは

宝篋印塔(ほうきょういんとう)は、供養塔や墓碑塔などに使われる仏塔の一種です。

「一切如来心秘密全身舎利宝篋印陀羅尼経(宝篋印陀羅尼)」という経典を体現したもので、宝篋印塔を礼拝供養することによって、亡くなった人が現世で犯した罪を「滅罪」し極楽浄土へ往生できるとされています。礼拝の際は「宝篋印陀羅尼」を唱え、塔の周りを右繞三匝(うにょうさんそう/仏に対して右回りに3回まわる参拝の作法)することで効力を発揮すると伝えられています。
宝篋印塔の形は、上から、細長い柱のような相輪(そうりん)・笠(蓋)・塔身・基礎・基壇で構成されています。方形(四角形)の塔身の上にのせられた笠が階段状になっており、その四隅に隅飾(すみかざり)と呼ばれる馬耳形の突起があるのが特徴です。
相輪とは、お釈迦様のお骨を納め供養する建物である「ストゥーパ(仏塔)」に起源を発するもので、石塔の場合は宝珠(ほうじゅ)・請花(うけばな)・九輪(くりん)・請花(うけばな)・伏鉢(ふくばち)・露盤(ろばん)という部分から成ります。

特徴

誠心院宝篋印塔は花崗岩製で、高さは約4m、幅は約2.4mあります。基礎背面に、鎌倉時代後期 正和三年(1313)の紀年銘と発願者の尼僧十二人の名が刻まれています。

相輪には伏鉢がなく、そこから上の請花・九輪・上部の請花・宝珠は後で補填されたものです。

笠の段形は、下二段、上六段に分けて造り重ねられています。隅飾は別石で造られ、輪郭のついた三弧となっています。

塔身は、高さ約52cm、幅約54cmの一石で造られ、正面には阿弥陀三尊を意味する梵字が刻まれています。
宝篋印塔は、主に真言宗や天台宗など密教系の宗派で使われ、金剛界四仏(大日如来を囲む四方の仏)などを表現する例が一般的ですが、宗派の違う阿弥陀如来三尊が表されているのは、誠心院が「誓願寺」と隣り合って建っていたこととの関係も想像させます。

塔身の下には、鎌倉式の複弁反花座(下向きに反り返った花弁が複数ある、蓮の花弁の形に掘られた台座)が置かれて、豊かで優れた表現が見て取れます。

基礎は二石材の切り石が組み合わされてできており、背面に紀年銘と発願者の尼僧十二人の名が刻まれています。

最下部を二重の基壇が支えています。

歴史

誠心院は、平安時代中期の万寿4年(1027年)、娘に先立たれこの世のはかなさを思い仏門に入った和泉式部のために、関白藤原道長が小さな庵を与えたことが起こりだと伝えられています。「誠心院」という名の由来は、初代住職である和泉式部の法名「誠心院専意法尼」です。江戸時代には、旅の案内書に寺や石塔のことが書かれ、和泉式部を慕い多くの参拝者があったと伝えられています。

幕末の禁門の変による元治元年(1864年)の大火や、明治5年に造られた新京極通による境内地の分断、更に近隣の火災にも遭い一時期は荒廃していましたが、大正8年(1919年)に現在の本堂が建立、平成9年末には山門が建設されました。

宝篋印塔も火災の被害を受け門外からだけのお参りとなっていましたが、2001年に改修・整備され、誰でもお参りのできる新京極の名所となっています。

現在は国の重要美術品として保護されています。

周辺の観光情報

新京極は、京都最古の商店街と言われています。豊臣秀吉の時代にこの近辺に寺院が集められ、境内での縁日や催し物などが盛んになったことで発展。明治5年(1872)、東京遷都で衰えていた市民の士気を盛り上げるべく、寺院の境内を整理して造られたのが新京極通でした。
観光客の間でも有名な繁華街ですが、誠心院とのゆかりの深い誓願寺、「智恵・学問・商才の神」として全国からの参拝で賑わう錦天満宮など、誠心院を含め8つの寺社があります。観光や買い物と合わせて、古来より息づく文化にも触れてみてはいかがでしょう。

交通アクセス

<鉄道>
阪急電車 京都線「河原町駅」から徒歩約9分
京阪電車 本線「祇園四条駅」または「三条駅」から徒歩約10分
京都市営地下鉄 烏丸線「四条駅」から徒歩15分
京都市営地下鉄 「京都市役所駅」から徒歩8分

<バス>
京都市営バス「四条河原町」または「河原町三条」から徒歩約8分

まとめ

今回は、お経の供養のために建てられた如法経塔、宗派を超えた表現が見られる宝篋印塔など、少し珍しい特徴がある石塔をご紹介しました。

その時代に合わせて供養の心を形にし、長い年月をかけて受け継いできた人々の想いが感じられます。

先人への感謝の思いや敬意が大切に守られてきた姿に直接触れ、人の心に息づく供養の心を感じてみてはいかがでしょう。


京都府内には歴史的価値、学術的価値の高い石塔が多数残されています。「京都の旅編(その1)」では、石清水八幡宮五輪塔と安養寺宝塔をご紹介しています。是非合わせてお読みください。
一度は見ておきたい重要文化財シリーズ・京都の旅編(その1)