お役立ちコラム お墓の色々
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ヨガでよく聞く五体投地(ごたいとうち)とは?仏教における最上級の礼拝方法を解説
私たちの心身によい影響を与えてくれるヨガ。健康のために、ヨガ教室に通い始めたという人もいるのではないでしょうか。ヨガには個性的なポーズがたくさんあります。中でも五体投地(ごたいとうち)のポーズは、体を床に伏せて、まるで誰かに謝罪しているようだと驚いた人もいるかもしれません。実は、五体投地は仏教を信仰する気持ちを示す最高の祈りの形であり、謝罪のために体を伏せる土下座とはまったく別のものです。この記事では、チベット仏教のケースを中心に、五体投地の意味やどんなときに行うのかについて解説します。
五体投地とは
五体投地とは、仏教において最大の敬意を込めた礼拝の方法です。おもに僧侶の礼拝で行われます。
五体とは頭、首、胸、手、足のことです。頭と両手、両足を指すこともあります。
全身を地面に投げ出したような体勢で祈ることで、仏法に帰依(きえ)する(信じて従う)気持ちを表します。日本で暮らしていると見る機会が少ないかもしれませんが、チベット(中国の南西部にある自治区)ではよく見られる祈り方です。
五体投地には、接足作礼(せっそくさらい)や頂礼(ちょうらい)といった別名もあります。「接足」には、仏様の足を自分の手で受け止め、さらに自分の頭を接することで最大の敬意を示すという意味があります。
五体投地のやり方
五体投地の具体的なやり方は地域や宗派によって異なりますが、チベット仏教では下記のように行います。
1. まずは立った状態で胸の前で両手を合わせ、合掌します。
2. 合掌したまま、両手を頭の上へ移動させます。
3. 合掌した両手を離さずに、眉間、のど、胸の順番で下ろしていきます。
4. 合掌した両手を離し、両手と両膝を地面につけてください。
5. そのまま額も地面につけて、伏せた状態になります。
6. あまり時間を置かずに立ち上がり、再び立った状態で胸の前で合掌します。
ヨガにおける五体投地のポーズでは、伏せた状態で手のひらを上向きにしますが、チベット仏教ではこの動きがありません。
五体投地はどんなときに行う?
五体投地は僧侶の礼拝で行われることが多いものの、仏教を深く信仰する地域では、一般の人が巡礼時に行う場合もあります。
チベット仏教の巡礼者の中には、聖なる山であるカイラス山へ向かう道を、五体投地を繰り返して進む人がいます。
巡礼の旅と聞くと、歩いて山を目指す姿をイメージする人も多いでしょう。
しかしチベット仏教への信仰心が強い人は、数歩進んでは五体投地で祈り、また数歩進んでは五体投地で祈るという動きを繰り返して山へ向かいます。
徒歩よりも遙かに長い時間をかけて進むのです。
五体投地を繰り返して進む様子は、映画「ラサへの歩き方 ~祈りの2400km」でも描かれ、注目されました。この映画は、「胡同(フートン)のひまわり」や「帰郷」などの作品で有名なチャン・ヤンが監督を務めています。
映画の中では、村人たちが自分たちの住む村からカイラス山までの2400kmもの道のりを、約1年かけて五体投地で進んでいきます。
この映画自体はフィクションですが、実際にチベットの巡礼者が五体投地を繰り返してカイラス山を目指すことも少なくありません。
なぜチベット仏教の巡礼者は五体投地を行うのか
チベットの人々は信仰心が強く、こうして他者のために祈る時間を大切にしています。
人々にとって五体投地を行っている時間は、単に体を投げ出しているのではなく、心の底から「すべての命が幸せであるように」と祈りを捧げている時間です。
また五体投地は行う回数が多いほど功徳を積める(よい行いを積み重ねることができる)とされている点も理由の一つです。
「途中でやめたいと思わないの?」と疑問を抱く人もいるかもしれませんが、五体投地でカイラス山を目指すと決めた人は、とても信心深く、何があってもたどり着くという強い決意をしています。
そのため、一度巡礼の旅に出た人は、決してあきらめずに五体投地で進み続けます。
日本でも行われる五体投地
五体投地はチベットだけでなく、日本のお寺でも行われています。宗派によって作法は異なりますが、五体投地を見られる代表的な行事を紹介します。
西大寺(さいだいじ)の光明真言土砂加持大法会(こうみょうしんごんどしゃかじだいほうえ)
光明真言土砂加持大法会は、奈良県の西大寺で10月に行われる法会(法要)です。西大寺では年間を通してさまざまな法要が行われますが、その中でも最も大切な法要とされています。
この大法会では、僧侶が15分ほどかけてゆっくりと五体投地を行う様子を見学できます。実際に見学してみると、かなり長い時間をかけて少しずつ動く様子に驚くかもしれません。
西大寺の五体投地は、提灯を折りたたむ様子に似ていることから、提灯たたみとも呼ばれています。
東大寺のお水取り(修二会 しゅにえ)
奈良県の東大寺では3月に、お水取りの愛称で知られる修二会が行われます。お堂に巨大な松明が掲げられる様子が有名ですが、ここでも五体投地が行われています。
修二会の五体投地は、お堂の床に用意された板に、僧侶が何度も膝を強く打ちつける点が特徴です。何度も飛び上がり、板に向かって激しく膝をぶつける様子は、チベットで行われる五体投地とは大きく印象が異なります。
修二会については、下記の記事で詳しく解説しています。
◆お水取り(修二会 しゅにえ)とは?なぜ行う?何をする?わかりやすく解説
まとめ
五体投地は、仏教を信仰する気持ちを全身で表す、もっとも丁寧な祈りの形です。
チベットの人々は、現代でもすべての命の幸せを願いながら、五体投地による祈りを続けています。
ヨガで五体投地のポーズを取る際には、あなたも他の人の幸せを祈ってみてはいかがでしょうか。忙しい日々を少しの間離れて、誰かのために祈ってみると、あなた自身の気持ちもきっとよい方向に向くはずです。
五体投地だけでなく、お墓参りのときに墓前で手を合わせることも立派な祈りです。
故人やご先祖様への感謝の気持ちや、幸せでいてくれるようにという思いを込めて祈りましょう。きっと故人やご先祖様も、喜んでくれるでしょう。
お墓参りでどんな風に祈ればいいかわからないときは、以下の記事を参考にしてみてください。
◆お墓参りでお願いごとをするのはNG?~歴史、宗派、マナーから考察~
この機会に、お墓参りの基本もおさらいしておくと安心です。