お役立ちコラム お墓の色々
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9月9日の重陽の節句とはどんな行事?◆起源や菊に込められた意味、風習、食べ物について解説します◆

9月9日は「重陽(ちょうよう)の節句」です。「菊の節句」とも呼ばれますが、「初めて聞いた」「何をする日なのか知らない」という方も多いのではないでしょうか?
節句というと、子どもの成長を祝う、ひな祭り(桃の節句)や端午の節句だけを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、9月にも、菊の花や秋の味覚を楽しみながら、無病息災や長寿を祈る節句が昔からの行事として伝えられています。
今回は、重陽の節句の起源や歴史、由来となった言い伝えにも触れながら、「菊の節句」と呼ばれる理由や、現代にも伝わる風習などをご紹介していきますので、日本で受け継がれてきた、季節を大切にする心や、節句の文化について改めて知る機会にしていただけたらと思います。
重陽の節句(菊の節句)とは
9月9日の「重陽の節句」は、ひな祭りで知られる「上巳(じょうし)の節句(桃の節句)」や鯉のぼりで馴染みのある「端午の節句(菖蒲の節句)」などと並ぶ、日本の四季を彩る「五節句(ごせっく)」の一つです。ほかの節句に比べると馴染みが薄いかもしれませんが、秋に咲く菊を愛でたり秋の味覚を楽しんだりして季節の節目を祝い無病息災を祈る、伝統ある年中行事です。
ちなみに五節句とは以下の5つを指します。
・1月7日 「人日(じんじつ)の節句」(七草の節句)
・3月3日 「上巳(じょうし)の節句」(桃の節句)
・5月5日 「端午(たんご)の節句」(菖蒲の節句)
・7月7日 「七夕(しちせき・たなばた)の節句」(笹の節句)
・9月9日 「重陽(ちょうよう)の節句」(菊の節句)
近年では9月というとまだまだ残暑が厳しい時期ですが、もともとこの行事が行われていた旧暦の9月は、現在(新暦)の10月頃にあたり、菊の花が咲く季節でした。徐々に涼しさを感じる季節の節目であり、無病息災や長寿を祈願して、薬効や不老長寿の力があるとも言われる菊の花を鑑賞したり菊酒をたしなんだりする風習があったことから、「菊の節句」とも呼ばれています。
その他の節句については、こちらの記事で詳しく紹介しています。
◆桃の節句・ひな祭りはどんな行事?〜起源や雛人形に込められた意味などを解説します〜
◆七夕(たなばた)とはどんな行事?〜起源や由来、地域の風習などを解説〜
重陽の節句の起源と「菊」との結びつき
古代中国の「重陽節」の行事
重陽の節句の起源は、他の節句と同様に古代中国に遡ります。
中国で生まれた陰陽思想において奇数は縁起の良い「陽数」とされ、3月3日や5月5日など陽数が重なる日は、大変めでたい日と考えられていました。一方で、奇数同士が重なると偶数(陰数)になり不吉であるという考え方もあったようです。こうした背景から、陽数が重なる日を季節の節目として祝い、同時に邪気を払う行事が行われていました。
なかでも9月9日は、最大の陽数「9」が重なる日ということで「重陽節」と呼ばれ、最大にめでたい日であると同時に、最も厄災を招きやすい日ともみなされ、厄払いを行う日として重要視されていたようです。
重陽節にまつわる言い伝え
旧暦の9月は菊が咲く季節です。
「菊」は晩秋の寒さの中で花を開くため、古くから不老長寿の霊薬と考えられてきました。菊の花を愛でることで長生きできると信じられていた中国には、重陽節の由来と言われる、次のような逸話が残されています。
不死の術や占いといった方術の修行者であった費長房(ひ ちょうぼう)が、弟子の桓景(かんけい)に、「9月9日には災いがある。帰郷して家族を連れ、茱萸(しゅゆ/日本での名前はゴシュユ、カワハジカミ)を入れた袋を下げて山に登り、菊酒を飲みなさい。」と忠告しました。
桓景が言われた通りにして夕方家に帰ると、鶏や牛などの家畜が命を落としています。家畜が身代わりとなり、桓景たちは災いを逃れることができたのでした。
このような言い伝えが広まり、人々は9月9日になると、満開の菊を楽しみ長寿を祈願したほか、小高い山や丘に登り、漢方薬にも用いられる茱萸を身につけたり菊酒を飲んだりして邪気を払ったと伝えられています。なお、高いところへ登ることには、天の神様に近づくとの意味が込められていたようです。
日本への伝来
このような行事や風習は、「菊」や、その効用とともに、奈良時代頃に日本へと伝わり、平安時代には、他の節句と同様に「節会(せちえ)」と呼ばれる宮中行事として取り入れられたとされています。菊の花を鑑賞し、菊酒をたしなんだことから「菊花の宴」とも呼ばれ、邪気を払うために茱萸を入れた袋を柱にかけて邪気を払ったり、若返りや長寿を祈って、菊の香りを移した綿(わた)で体を拭いて若返りを願ったりする風習もあったようです。なお、この頃から宮中で親しまれた菊の花が、天皇家のご紋章にもなっています。
江戸時代になると、菊を楽しみ、菊を用いて厄払いや長寿祈願をする風習が庶民にも広まり、更に、幕府によって五節句が式日(現在の祝日)に制定されたことから、「菊の節句」として親しまれるようになったと考えられています。
現在の重陽の節句
収穫のお祝いとも結びついた、日本の重陽の節句
明治時代に入り新暦が採用されると、新暦の9月が農繁期と重なったことや、五節句を式日とする制度の廃止などにより、家庭での行事は次第に行われなくなりました。しかしその一方で、秋の収穫を祝う文化と結びつき、栗などの秋の味覚をいただいて無病息災を祈るといった風習として受け継がれています。長崎や佐賀など九州北部で秋に行われる、豊作に感謝をする祭り「くんち」も、漢字では九日(くにち/九州の方言でくんち)や供日と書き、重陽の節句に行われた秋祭りが由来と言われています。
老人や故人への敬意を表す、現代中国の重陽節
現在の中国では、重陽節が「敬老の日」として大切にされており、各地で高齢者への感謝や敬意を伝える行事が行われています。これは、高齢者を敬う「敬老」の思想が古くから根づいていることに加え、「9(ジゥ)」の音が「久(ジゥ)」と同じで、「永久」や「長寿」を意味することも関係しているとされています。
また、この日は、家族やご先祖様との繋がりも大切にするという意味で、お墓参りが習慣となっている地域もあり、家族の絆を強める機会となっているようです。
重陽の節句(菊の節句)の代表的な風習
重陽の節句(菊の節句)に関わる家庭での風習は、今ではほとんど見られなくなっていますが、一部の寺社や地域などでは、重陽に合わせた催しを行うなど、今もなお、形として受け継がれています。
菊や菊人形を鑑賞する
もともと重陽の節句が行われていた旧暦の9月9日は、現在(新暦)の10月頃にあたり、菊が満開になる季節です。そのため、10月から11月にかけては、重陽にちなんだ菊の花や菊人形を展示するイベントが各地で開かれています。
代表的なものでは、日本最古の菊の祭典と言われる、茨城県笠間市の「笠間の菊まつり」や、日本最大規模の菊人形のイベントと言われる、福島県二本松市の「二本松の菊人形」などが有名で、毎年多くの人で賑わいます。
なお、菊人形とは、江戸時代から続くと言われる、衣装の部分を菊の花や葉を組み合わせて作った人形細工です。歌舞伎や舞台の一場面を再現するものが多く、近年では大河ドラマをテーマにした展示も人気を集めています。
菊花酒(菊酒)
古くから、重陽の節句には、菊の花をお酒に漬け込んだり浮かべたりして菊の香りを移した菊酒を飲み、邪気を払い長命を願うという風習がありました。
現在では、寺社などで開かれる重陽の行事で、菊酒の振る舞いを行うなどして、親しまれています。
食用菊
重陽の節句に欠かせない菊の花は、食用のものがお刺身に添えられるほか、おひたし、和え物、天ぷらなどでも楽しむことができます。食用菊の産地として知られる新潟などを中心に、この時期に菊を食べる文化が受け継がれています。
菊綿(きくわた)、菊着せ綿・被綿(きせわた)
これは、重陽の前日である8日の夜に綿を菊花にかぶせて、菊の朝露と香りを染み込ませ、9日の朝にその着せ綿で肌をぬぐうという風習です。老をすてるといわれ、平安時代から若返りと長寿を祈って行われていたとされ、藤原道長が紫式部に送ったとも伝えられています。
現在では、色とりどりの綿を菊に被せて展示したり、朝露を吸った綿を包んでお守りにするなどして、楽しまれています。また、菊の花が綿を被った姿を模した和菓子も、重陽の節句の定番として多くの和菓子店で売り出され、親しまれています。
後の雛(のちのひな)
重陽の節句には、3月3日のひな祭りに飾った人形を、虫干しを兼ねて再び飾る、「後の雛」と呼ばれる風習もあります。ひな祭り(上巳の節句・桃の節句)が、女の子の健やかな成長を祈る行事であるのに対し、後の雛は「大人のひな祭り」とも称され、健康や長寿、厄除けなどを祈願するとされています。
重陽の節句の食べ物
重陽の節句は秋の収穫を祝う行事とも結びついており、菊のほかにも、豊作や無病息災の祈りを込めて、よく食べられるものがあります。
栗ご飯・栗のお菓子
栗は、代表的な秋の味覚です。種を植えてから実がなるまでに長い年月がかかる栗は、不老長寿につながる縁起の良い食べ物と考えられており、重陽の節句では、栗ご飯でお祝いしたり、旬の栗を食べて豊作を願ったりしたことから、庶民の間では「栗の節句」とも呼ばれていたようです。
この時期には、栗を使ったお菓子を楽しむ家庭も多くあるようです。
秋茄子
昔から、秋はナスが最も美味しい時期と言われています。日本には、旬の食材を食べて豊作や無病息災を祈る文化がありますが、加えて関東地方では、「三九日(みくんち)茄子」と言って、9月の9日、19日、29日という9のつく日にナスを食べると中風(発熱や頭痛、風邪などの不調)にならないという言い伝えもあり、重陽の節句には秋茄子を食べて無病息災を祈る風習があります。
重陽の節句にお墓参りはいかがでしょうか
重陽の節句は、季節の節目に無病息災や長寿を祈願する行事ですが、その願いは自分や家族だけにとどまらず、今ある命を受け継いできたご先祖様への想いにも繋がります。
前述でも紹介しましたが、中国では、重陽節が敬老の日として大切にされているだけではなく、家族の歴史やご先祖様とのつながりにも感謝する日として、お墓参りをする地域もあるようです。
日本では古くから、ご先祖様が家族を守ってくださるという考え方があります。ですから、無病息災を祈る重陽の節句(菊の節句)には、日々見守ってくれているご先祖様への感謝と、これからも家族が元気に過ごせるようにとの祈りを込めて、お墓参りをするのもおすすめです。とりわけ、この日に菊を手向けることで、より一層その祈りが伝わり、節句を迎える喜びを分かち合うこともできるでしょう。
私たちはご先祖様のおかげで、今ここに生きています。重陽の節句に墓前で手を合わせるひとときは、ご先祖さまや大切な人を身近に感じ、感謝の想いを新たにする良い機会となるはずです。
お墓参りと菊については、こちらも合わせてお読みください。
まとめ
菊の花に無病息災や長寿の願いを込める「重陽の節句」。現代では他の節句と比べて影が薄くなってはいますが、今も残る風習とともに、自然の恵みに感謝し家族の健康や平穏を祈るといった想いが、現代においても受け継がれています。
菊を飾る、栗や茄子を使った料理を楽しむなど、身近な形で伝統を取り入れることで、改めて日本に息づく節句の文化や受け継がれてきた人々の祈りや想いに触れることができるかもしれません。
また、無病息災の祈りは、ご先祖様から繋いでいただいた命への感謝にも繋がります。菊は仏花の定番でもありますので、故人の好みや人柄に合いそうな種類を選んでお墓や仏壇に飾り、ご先祖さまとのつながりを感じてみてはいかがでしょうか。
お墓参りの作法や意味、菊以外にこの季節におすすめの花などについてまとめている記事もありますので、合わせてご覧ください。