お役立ちコラム お墓の色々

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一度は見ておきたい重要文化財/美術品シリーズ・京都の旅編・その4

供養・埋葬・風習コラム

一度は見ておきたい重要文化財/美術品シリーズ・京都の旅編・その4

日本では、国内にある建造物、美術工芸品、考古資料、歴史資料等の有形文化財の中で、歴史上・芸術上の価値が高いもの、または学術的に価値の高いものを、文化財保護法に基づき重要文化財として指定、保護しています。

全国各地にある石仏や石塔の中にも、重要文化財の指定を受けているものがいくつもあり、その所有者や地域の人々によって、石仏や石塔に込められた想いや由来が語り継がれてきたことで、今もなお私たちに歴史や文化の息吹を感じさせてくれます。

今回は「一度は見ておきたい重要文化財/美術品シリーズ」と題し、歴史的価値、学術的価値の高い石仏や石塔をご紹介し、その魅力に迫っていきます。

観光情報も添えていますので、ぜひ実際に足を運んでいただき、その雰囲気を肌で感じ、目で愉しみ、心で歴史に触れてみてはいかがでしょうか?

一度は見ておきたい重要文化財/美術品シリーズ・京都の旅編・その4

二尊院(にそんいん)宝篋印塔(京都市右京区嵯峨二尊院門前長神町27)

二尊院は、百人一首にも詠われた小倉山の麓に広がる天台宗山門派(延暦寺)の寺院で、平安時代の承和八年(841)、嵯峨天皇の勅願により慈覚大師が創立しました。「二尊院」という名前は、釈迦如来と阿弥陀如来の二尊を本尊とすることに由来しており、本堂にはこの二尊の像が並べて安置されています。

境内の裏山には広大は墓域が広がっており、その一番奥まった高所に「三帝陵」と呼ばれる石塔三基が並ぶ一角があります。その中の一番左(南側)にある石塔が、国の重要美術品の認定を受けた、これから紹介する宝篋印塔です。

宝篋印塔とは

宝篋印塔(ほうきょういんとう)は、供養塔や墓碑塔などに使われる仏塔の一種です。

「一切如来心秘密全身舎利宝篋印陀羅尼経(宝篋印陀羅尼)」という経典を体現したもので、子孫が宝篋印塔を礼拝供養することによって、亡くなった人が現世で犯した罪を「滅罪」し極楽浄土へ往生できるとされています。礼拝の際は「宝篋印陀羅尼」を唱え、塔の周りを右繞三匝(うにょうさんそう/仏に対して右回りに3回まわる参拝の作法)することで効力を発揮すると伝えられています。
宝篋印塔の形は、上から、細長い柱のような相輪(そうりん)・笠(蓋)・塔身・基礎・基壇で構成されています。方形(四角形)の塔身の上にのせられた笠が階段状になっており、その四隅に隅飾(すみかざり)と呼ばれる馬耳形の突起があるのが特徴です。
相輪とは、お釈迦様のお骨を納め供養する建物である「ストゥーパ(仏塔)」に起源を発するもので、石塔の場合は宝珠(ほうじゅ)・請花(うけばな)・九輪(くりん)・請花(うけばな)・伏鉢(ふくばち)・露盤(ろばん)という部分から成ります。

特徴

二尊院宝篋印塔は花崗岩製。現在は相輪が塔の脇に落ちてしまっていますが、この相輪をつけた際の高さは約2.6mとなります。

前述の通り、相輪は落ちてしまい傍らに置かれていますが、九輪の上に水煙と呼ばれる部分が付いており、その先は欠損しています。宝篋印塔で、水煙付きの相輪が採用されている例は少ないようです。ちなみに、相輪に水煙をつける形状は通常は層塔(三重塔や五重塔など幾重にもかさなった高い塔)に多く使われており、隣にも同じく相輪を欠損した層塔が建っていることから、そちらのものと入れ替わっているのでないかという説もあります。

塔身の各面には、蓮華座付きの月輪(蓮華の花を型どった台座の上に満月を表す円形が乗っている図)の内に金剛界四仏(密教で大日如来の四方に位置する仏)の種子(しゅじ/仏尊を象徴する真言・梵字)が刻まれています。4面それぞれは、正面は阿閦(ウーン)、南面は宝生(タラーク)、背面は阿弥陀(キリーク)、北面は不空成就(アク)となっています。

笠は下二段、上六段で、上下は別石となっています。
隅飾も別石で造られ、やや外側に傾いています。三弧で輪郭付き、八面全てに蓮華座付きの月輪とその内側に梵字「ア」が刻まれています。

基礎は壇上積式(直角に加工した石材を規則的に積み上げたもの)で、側面には四面全てに形の良い格狭間を大きく刻んでいます。上2段は別石となっています。

歴史

二尊院の宝篋印塔は、鎌倉時代後期〜中頃の作品と伝えられています。
一説では、亀山天皇の分骨墓と伝承されていますが、後奈良天皇墓であるという説もあるようです。
これは、鎌倉時代に二尊院を再興した湛空の次世である叡空が亀山天皇の戒師(出家の際に仏門に入るための戒律・戒名を授ける人)を、第十六世である恵教が後奈良天皇の戒師を務めたことから、このような伝承が残っているのではないかと考えられます。

周辺の観光情報

二尊院は紅葉の名所としても知られています。特に総門を抜けた先に真っ直ぐに広がる参道は数百メートルの間にモミジとサクラの木が交互に植えられ、秋には見事な紅葉のトンネルが現れます。「紅葉の馬場」と呼ばれ、時代劇のロケにもよく使われる有名な場所です。
二尊院周辺には観光名所も点在しています。テレビドラマやCMなどにもよく登場する竹林の道までは徒歩で8分ほど。渡月橋や、桜・紅葉の名所で知られる嵐山公園、保津川の紅葉を楽しめる嵯峨野トロッコ列車の駅などは1.5キロほど(徒歩20分ほど)の距離となっています。嵯峨・嵐山の京都らしい季節の風景も一緒に楽しんでみられてはいかがでしょうか。

交通アクセス

<鉄道>
京福嵐山本線 嵐山駅下車 徒歩約15分
JR山陰本線(嵯峨野線) 嵯峨嵐山駅下車 徒歩約19分
嵯峨野観光鉄道 トロッコ嵐山駅下車 徒歩約7分

<バス>
市バス嵯峨釈迦堂前下車 徒歩約10分
京都市バス「嵯峨小学校」下車 徒歩約5分

<自動車>
名神高速道路「京都南IC」より約35分
(無料駐車場10台あり)

一度は見ておきたい重要文化財/美術品シリーズ・京都の旅編・その4

覚勝院(かくしょういん)宝篋印塔(京都市右京区嵯峨釈迦堂藤ノ木町)

覚勝院は、真言宗大覚寺派の旧嵯峨御所大本山大覚寺、その門前に残る唯一の塔頭寺院(たっちゅうじいん/大きな寺院の敷地内にある小さな寺院)です。室町時代、正平年間(1346~1370年)に、摂政や関白の子息が出家して法皇(上皇)の法流を継承する「院家(いんげ)」の住まいとして建立されたとされ、天皇自らが神仏習合の祈願を行った寺院と伝えられています。

前述の通り、覚勝院は大覚寺の南側にある寺院ですが、今回紹介する宝篋印塔のある覚勝院墓地は、覚勝院から約700m、徒歩10分ほどの場所にある清涼寺の北側に位置しており、墓地の中央に宝篋印塔が建っています。

特徴

覚勝院宝篋印塔は花崗岩製で、総高2.26mです。

笠は、下二段、上六段。隅飾は二弧輪郭付で、

笠の段型は、下二段、上六段。隅飾は二弧の輪郭付で、内には蓮華座上の月輪が刻まれています。

塔身の側面は円形に彫りくぼめ、蓮華座上に顕教四仏が座する姿が半肉彫りされています。(西面:阿弥陀、北面:弥勒、東面:薬師、南面:釈迦)塔身をこのように彫りほりくぼめたものは珍しく、内の四方仏坐像を一層引き立たせています。

基礎は壇上積式で、上部は複弁反花。側面は、正面のみ格狭間内に開蓮華文様が浮彫されている。他の三面は、形のよい格狭間のみが彫られています。

基壇も壇上積式で、切石の檀上に設けられています。側面を二区に分け、それぞれ内に格狭間をつくっています。

歴史

この宝篋印塔の建つ墓地は、古くは地蔵院墓地と呼ばれていました。この呼び名は、かつてこの地にあった清涼寺の塔頭寺院である地蔵院に由来しているようです。地蔵院は明治初年に覚勝院に合併され、祀られていた地蔵菩薩は覚勝院に安置されています。墓地についても現在は覚勝院の墓地となっています。
この宝篋印塔は、地蔵院の開祖である円覚上人を祀るために建てられたものだと伝えられています。

なお、1960年(昭和35年)2月9日に、国の重要文化財として指定されました。

周辺の観光情報

覚勝院で開かれる有名な行事に、11月下旬に行われる聖天様の大根供養があります。
覚勝院の本堂に祀られている歓喜天、聖天様が喜ぶお供えものの一つである大根をお供えし、その大根のお下がりを炊き上げていただくという行事です。大根は心身の毒を消し、生命を養う薬とも考えられており、大根をいただいて心身を清めるという意味も込められています。
お寺に伝わる行事も楽しみつつ、供養の心に触れる旅も良いのではないでしょうか。

交通アクセス

<バス>
・京都バス
京都駅より大覚寺行・清滝行にて嵯峨釈迦堂前下車 徒歩約1分

・市バス
京都駅より28番嵐山大覚寺行 嵯峨釈迦堂前下車 徒歩約1分
四条烏丸より91番太秦映画村大覚寺行 嵯峨釈迦堂前下車 徒歩約1分
三条京阪より11番嵯峨山越行 嵯峨小学校前下車 徒歩約5分

<鉄道>
JR嵯峨嵐山駅下車 徒歩約11分
京福電鉄 京福嵐山駅下車 徒歩約12分
阪急電鉄 阪急嵐山駅下車 徒歩約22分

<自動車>
名神高速道路「京都南IC」より約30分

まとめ

今回は、京都府の嵯峨野にある2つの宝篋印塔についてご紹介しました。
どちらも、各所に繊細な彫刻がなされ、仏教の精神や供養の心を丁寧に表していることが伝わってきます。

この地域は、紹介した石塔の他にも歴史上の様々な人物が供養されている場所でもあります。嵯峨・嵐山観光がてら現地に足を運び、先人の思いを静かに受け継いでいる風景を通して供養の心に触れてみてはいかがでしょうか。


京都には他にも歴史的価値、学術的価値の高い石塔が多数あり、これまでにもいくつかの記事でご紹介しています。よろしければ合わせてお読みください。

一度は見ておきたい重要文化財シリーズ・京都の旅編・その1
石清水八幡宮五輪塔/安養寺宝塔

一度は見ておきたい重要文化財シリーズ・京都の旅編・その2
高山寺宝篋印塔/為因寺宝篋印塔

一度は見ておきたい重要文化財/美術品シリーズ・京都の旅編・その3
高山寺如法経塔/誠心院宝篋印塔