お役立ちコラム お墓の色々
お役立ちコラム お墓の色々
- 供養をきわめる -
一度は見ておきたい重要文化財/石塔シリーズ・奈良の旅編・その3
日本では、国内にある建造物、美術工芸品、考古資料、歴史資料等の有形文化財の中で、歴史上・芸術上の価値が高いもの、または学術的に価値の高いものを、文化財保護法に基づき重要文化財として指定、保護しています。
全国各地にある石仏や石塔の中にも、重要文化財の指定を受けているものがいくつもあり、その所有者や地域の人々によって、石仏や石塔に込められた想いや由来が語り継がれてきたことで、今もなお私たちに歴史や文化の息吹を感じさせてくれます。
今回は「一度は見ておきたい重要文化財/石塔シリーズ」と題し、歴史的価値、学術的価値の高い石仏や石塔をご紹介し、その魅力に迫っていきます。
観光情報も添えていますので、ぜひ実際に足を運んでいただき、その雰囲気を肌で感じ、目で愉しみ、心で歴史に触れてみてはいかがでしょうか?
西方院五輪塔(奈良県奈良市五条2丁目)
西方院(さいほういん)は、奈良県奈良市にある律宗の寺院・唐招提寺(とうしょうだいじ)の塔頭(たっちゅう=本寺の境内にある小寺)の一つで、「奥の院」とも呼ばれます。拝観には事前の予約が必要で、普段は一般公開されていません。
昭和になってから建造された収蔵庫の内部には、西方院の御本尊「阿弥陀如来立像」が安置されています。これは、運慶(うんけい)とともに鎌倉時代を代表する仏師の一人・快慶(かいけい)が晩年に造り上げた国指定の重要文化財です。
そして、ひっそりとした境内では、西方院五輪塔がひときわ存在感を放っています。
五輪塔とは
五輪塔は平安時代に誕生したといわれる墓石デザインです。
上段から「空輪」「風輪」「火輪」「水輪」「地輪」と呼ばれる墓石があり、それぞれ自然の五大元素を表しています。
五輪塔を建てると亡くなった人はみな、最高の位と最高の世界へゆけるとされ、今日もなお宗派を問わず「ありがたい最高のお墓」とされています。
五輪塔について詳しくはこちらの記事をお読みください。
◆五輪塔の歴史と特徴をわかりやすく解説します
特徴
西方院五輪塔は、花崗岩製で高さは約240cmです。鎌倉時代後期の正応5年(1292年)頃に建てられたと考えられています。
空輪・風輪
一石から造られており、空輪は下膨れの形をしています。
火輪
軒口は厚く、両端で反っています。
水輪
ほぼ球形の美しい形をした水輪は、やや上の方に最大径があります。
地輪
地輪は四面とも無地となっており、刻銘はありません。
反花座(かえりばなざ)は、複弁の奥に小さな弁を作った子持ち複弁となっています。
※蓮弁の先端が下をむいたものを反花といい、反花を上端に置いた台座のことを反花座といいます。
歴史
西方院は鎌倉時代中期の寛元元年(1243年)に慈禅(じぜん)という僧侶により開かれました。
もともとは唐招提寺と隣接していましたが、大正時代に大阪電気軌道畝傍(うねび)線(現・近鉄橿原線)が西方院と唐招提寺の間に開通したため、唐招提寺から離れた状態となっています。
昭和44年に行われた五輪塔の解体修理では、基壇の下に石室が発見され、その中から銅製の舎利筒が見つかりました。そして、そこには「証玄(證玄/しょうげん)和尚が、正応5年(1292年)8月14日に入滅した」との銘文が刻まれていました。
証玄和尚は、毎年5月19日に行われる伝統行事「うちわまき」のはじまりとなった故事で知られ、唐招提寺の中興を成し遂げた大悲菩薩覚盛上人(だいひぼさつ かくじょうしょうにん)の直弟子です。
この銘文により、五輪塔は証玄和尚の入滅後、その墓塔として鎌倉時代後期の正応5年に造立されたものと考えられています。
なお、平成8年(1961年)3月22日に五輪塔は奈良県の指定文化財となりました。
周辺の観光情報
西方院から北へ徒歩10分のところにあるのが、宝来山古墳です。
全長は約227メートルあり、全国では20番目の規模を誇ります。水が満ちた濠で周囲をめぐらせた美しい前方後円墳で、古墳時代初期(4世紀後半頃〜5世紀初頭)に造られました。
実際の被葬者は不明ですが、宮内庁により「菅原伏見東陵(すがはらのふしみのひがしのみささぎ)」という、第11代垂仁(すいにん)天皇の陵(りょう=天皇の墓)とされています。
垂仁天皇は在位中、野見宿禰(のみのすくね)という豪族の進言によって、「人柱」の代わりに「埴輪」を埋葬したというエピソードが「日本書紀」に残されており、これが“埴輪の起源”とも言われています。
西方院までの交通アクセス
<バス>
・JR奈良駅から奈良交通バス「奈良県総合医療センター」行きに乗車、約17分
「唐招提寺」停留所下車、西に徒歩3分。
・近鉄奈良駅から奈良交通バス「奈良県総合医療センター」行きに乗車、約22分
「唐招提寺」停留所下車、西に徒歩3分
<鉄道>
・近鉄西ノ京駅下車、北に徒歩10分
・近鉄尼ヶ辻駅下車、南に徒歩13分
室生寺五輪塔(奈良県宇陀市室生)
室生寺(むろうじ)は奈良県宇陀市室生にある真言宗室生寺派の大本山です。女人禁制の高野山に対し、女人の登山参詣を許したことから「女人高野」とも呼ばれ、親しまれてきました。
また、日本有数の仏教美術の宝庫でもあり、国宝・五重塔をはじめ、たおやかなたたずまいを見せる平安期の仏像など、貴重な文化財が多く安置されています。
その貴重な文化財の1つに数えられるのが、本堂(潅頂堂/かんじょうどう)西側の山裾に建てられた室生寺五輪塔です。
特徴
室生寺五輪塔は安山岩製で、鎌倉時代後期に建てられたと考えられています。高さは190cmあり、大規模な壇上積の基壇の上に、切石の壇を設け、その上に複弁の反花座をおき、五輪塔が据えられています。
この複弁の反花座は「大和形式」と呼ばれ、中央から左右に少し流れるように、優美に蓮の花びらが細工され、豊かな膨らみをもつのが特徴です。
空輪・風輪
両輪とも美しい曲線をもち、空輪は球に近くなっています。
火輪
力強い軒反(のきぞり)を示しています。
水輪
水輪の上部には、直径15.1cm・深さ16.5cmの奉籠孔(ほうろうこう)があります。
奉籠孔とは、小仏像や経典、供養品、遺骨や遺髪、古銭などを五輪塔の中に入れるための穴のことです。この奉籠孔には、水晶製五輪塔が納められていました。
地輪
地輪は四面とも無地となっており、刻銘は入っていません。
歴史
室生寺五輪塔は、鎌倉時代後期から南北朝時代の公卿で、「神皇正統記」の著者として知られる北畠親房(きたばたけ ちかふさ)の墓と伝えられています。ただ、大正5年(1916年)に発掘調査が行われ、五輪塔の下から骨壷が出土しましたが、確認はできませんでした。
なお、室生寺五輪塔は、昭和36年(1961年)3月23日に、国の重要文化財に指定されています。
周辺の観光情報
室生寺は石楠花(しゃくなげ)の名所としても知られています。また、毎年紅葉のシーズンには、境内のライトアップもされています。特に人気があるのは国宝・五重塔。屋外に建つ五重塔としては、法隆寺五重塔に次いで日本で2番目に古く、国内最小でもある塔には、龍の姿が映し出されたこともありました。ライトアップ期間は非常に短いですが、紅葉自体は1ヶ月以上楽しめ、また紅葉期間中は限定の御朱印も用意され、人気を集めています。
※新型コロナウイルス感染症の影響等で、内容等が変わる場合がございます。
拝観の際は情報を事前にご確認の上お出かけくださいませ。
交通アクセス
<バス>
・近鉄室生口大野駅から、奈良交通バス「室生寺」行きに乗車、約14分
「室生寺」停留所下車、徒歩約6分
まとめ
建てると亡くなった人はみな最高の位と最高の世界へ往けるとされ、今日まで宗派を問わず、「ありがたい最高のお墓」とされている「五輪塔」。
長い年月を経てもなお、当時の面影を残している背景には、故人を仏様として大切にしてきた人々の想いや願いがあります。
極楽往生を叶える五輪塔。
今回ご紹介したスポットをぜひ一度訪れてみて、歴史の息吹を体感してみてください。
奈良県内には他にも歴史的価値、学術的価値の高い石塔があり、「奈良の旅編(その1)」では、「当麻北墓五輪塔」「東大寺 伴墓三角五輪塔」、「奈良の旅編(その2)」では、「西大寺奥の院五輪塔」「長岳寺五輪塔」をご紹介しています。こちらの記事もあわせてお読みください。
◆一度は見ておきたい重要文化財シリーズ・奈良の旅編
◆一度は見ておきたい重要文化財/石塔シリーズ・奈良の旅編・その2