お役立ちコラム お墓の色々
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- 供養をきわめる -
一度は見ておきたい重要文化財シリーズ・奈良の旅編
日本では、国内にある建造物、美術工芸品、考古資料、歴史資料等の有形文化財の中で、歴史上・芸術上の価値が高いもの、または学術的に価値の高いものを、文化財保護法に基づき重要文化財として指定、保護しています。
全国各地にある石仏や石塔の中にも、重要文化財の指定を受けているものがいくつもあり、その所有者や地域の人々によって、石仏や石塔に込められた想いや由来が語り継がれてきたことで、今もなお私たちに歴史や文化の息吹を感じさせてくれます。
今回は「一度は見ておきたい重要文化財シリーズ」と題し、歴史的価値、学術的価値の高い石仏や石塔をご紹介し、その魅力に迫っていきます。
観光情報も添えていますので、ぜひ実際に足を運んでいただき、その雰囲気を肌で感じ、目で愉しみ、心で歴史に触れてみてはいかがでしょうか?
当麻北墓五輪塔(奈良県葛城市當麻)
當麻寺(たいまでら/当麻寺)は、奈良県葛城市當麻にある真言宗・浄土宗二宗の寺院です。612年、聖徳太子の異母弟である麻呂子皇子(まろこしんのう)が、河内国に万法蔵院を創立し、後に現在地に移して當麻寺と改称したと伝わっていますが、伽藍(がらん)配置の形式から、奈良時代の創立とされています。
鎌倉時代から当麻曼荼羅(まんだら)を中心とする浄土信仰の霊場として栄え、中将姫伝説や、国宝の本堂・東塔・西塔など多くの重要文化財があることでも知られています。
その當麻寺の北側斜面にある古い共同墓地に、当麻北墓(たいまきたばか)五輪塔があります。
五輪塔とは
五輪塔は平安時代に誕生したといわれる墓石デザインです。
上段から「空輪」「風輪」「火輪」「水輪」「地輪」と呼ばれる墓石があり、それぞれ自然の五大元素を評しています。
五輪塔の他、お墓のデザインに関しての記事がございますので、ぜひご覧ください。
◆お墓のデザインはどんなものがある?
特徴
凝灰岩製で、塔高は約245cm。切石加工した基壇の上に低い地輪があり、水輪は球形ではなく、棗(なつめ)やリンゴのような独特の形をしています。
火輪は、屋根のたるみが緩くなっており、軒も緩く反り返っていて、軒先がぶ厚くなっています。
地輪と水輪には四方に深く薬研彫り(やげんぼり/文字の凹みがV字になっている彫り方。陰影がしっかりとつき、文字が浮き出たように見えるのが特徴)された趣旨が見て取れます。
歴史
紀年銘が確認できないため、造立時期は不明です。しかしながら、
・花崗岩が普及する以前に多く用いられた凝灰岩を使用している。
・空輪と風輪の間に、繋ぎの石がある
・重心の低い空輪の形状
といった点から、五輪塔のスタイルが定型化する以前である、平安後期の様式と考えられ、大和地方(近畿地方)最古の五輪塔とされています。
なお、1957年2月19日に国の重要文化財に指定されました。
周辺の観光情報
當麻寺は牡丹の寺として古くから有名です。毎年4月中旬〜5月上旬になると、當麻寺最大の庭園「奥院浄土庭園」では80種3000株の牡丹が色を競い、その名の通り当麻曼陀羅に描かれた極楽浄土を彷彿させる光景を見ることができます。
その他にも牡丹園が数ヶ所に分かれており、それぞれに異なった特徴が表現されているため大変見ごたえがあります。
交通アクセス
<鉄道>
近畿日本鉄道南大阪線・当麻寺駅(たいまでらえき)から徒歩15分
<自動車>
大阪市内方面から:西名阪自動車道「柏原IC」
名古屋・奈良市内方面から:西名阪自動車道「香芝IC」
和歌山・関空方面から:南阪奈自動車道「葛城IC」
橋本・五條・橿原市内から:京奈和自動車道や大和高田バイパス利用
東大寺 伴墓三角五輪塔(奈良県奈良市川上町)
東大寺伴墓(ともはか)三角五輪塔は、珍しい三角錐の火輪をもつ五輪塔です。
火輪は「三角」と定義されており、すべての面が三角である三角錐の形状は、五輪塔の本来の形であるということもできますが、三角錐の形状はあまり普及しなかったようです。
なお、五輪塔は、自然の五要素を下から四角・丸・三角・半月・団円を積み上げた平面図に基づいたものなので、現代で多く見られる四角錐の火輪でも正解です。
特徴
きめの粗い花崗岩製で、塔高約173cm。直接地面に据えられており基壇や台座は見当たりません。地輪の上端面はほぼ水平になっており、各側面の中央には、梵字「ア」が大きく薬研彫りされています。
そして最大の特徴は火輪です。通常の五輪塔の火輪は、底面が四角の四角錐ですが、ここでは底面も三角の三角錐になっています。軒の厚さや反り返りはありませんが、三辺の軒の線は外へふくらんでいます。水輪は下ぶくれで、空輪が少し押しつぶした形になっています。
歴史
奈良時代(8世紀初め頃)、現在の共同墓地公園・三笠霊苑の一番上から少し下がった場所に、大納言・大伴安麻呂が永隆寺(えいりゅうじ)を創建しました。
大伴氏の氏寺であったため伴寺とも呼ばれ、後に東大寺の末寺となりました。その後、伴寺は廃絶し東大寺の墓所となっています。「伴墓」の由来はここからきています。
伴墓三角五輪塔は、東大寺俊乗堂の辺りから元禄16年(1703年)に今の地に移され、三角五輪塔を好んで作った俊乗房重源(しゅんじょうぼう ちょうげん/源平の争乱で焼失した東大寺を復興させた僧)の墓といわれています。
なお、鎌倉時代前期の造立といわれ、1955年2月2日に国の重要文化財に指定されました。
周辺の観光情報
三笠霊苑の近くには、若草山があります。年に1度行われる「若草山焼き行事」は有名で、3つの笠を重ねたように見えるため「三笠山」とも呼ばれています。
山麓ゲートから山頂までは徒歩で約30分〜40分。道中は一重目、二重目、山頂(三重目)、鶯塚古墳周辺道などで、それぞれ異なる景観を楽しむことができます。
山頂からは、東大寺、興福寺など、奈良の景観を眺めることができ、おすすめです。
「奈良奥山ドライブウェイ」を利用すると車で山頂(三重目)へアクセスすることもできます。
山梨県笛吹川フルーツ公園(山梨県山梨市)、皿倉山(福岡県北九州市八幡東区)と並んで、新日本三大夜景に数えられるほどの、夜景の名所でもあります。
<開山期間>3月第3土曜日〜12月第2日曜日。9:00〜17:00。
交通アクセス
<鉄道>
JR、又は近鉄奈良駅より「青山住宅行」「洲見台行」のバスに乗り
「今在家」停留所で下車 徒歩約10分。
<自動車>
奈良県内・大阪・神戸方面から:国道369号線を東進。
「県庁東」交差点を左折、1kmほど進み「今在家」交差点を右折し約400m。
京都方面から:国道369号線を東進。
「般若寺」交差点を柳生方面へ約300m、1つ目の信号(三叉路)を右折し約200m。
まとめ
今回は、奈良県にある当麻北墓五輪塔と東大寺伴墓三角五輪塔をご紹介いたしました。
「五輪塔」を建てると、亡くなった人はみな、最高の位と最高の世界へゆけるとされ、今日もなお、宗派を問わず「ありがたい最高のお墓」とされています。
平安時代や鎌倉時代の五輪塔が今も残り、その由来が語り継がれているということは、周囲の方が持つ故人への想いは、それはそれは深かったのであろうと想像できます。
供養の想いが時を経て受け継がれていくお墓。その佇まいを、ぜひ現地に足を運んで体感してみてはいかがでしょうか。