お役立ちコラム お墓の色々

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仏事で「お香」を使うのはなぜ?〜仏教におけるお焼香、線香の意味や歴史を解説します〜

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仏事で「お香」を使うのはなぜ?〜仏教におけるお焼香、線香の意味や歴史を解説します〜

お墓参りや仏壇で手を合わせる際には、線香が欠かせません。また、通夜や葬儀、法事などで行うお焼香も大切な儀式です。このようなお香のお供えは、他のお供えと違い、手を合わせる一人一人が行うことが一般的で、自宅の仏壇や家族のお墓だけでなく、帰省先や親戚のお墓や仏壇で手を合わせる際にも線香を手向けるという方が多いのではないでしょうか。

仏事の中で、それほどまでに大切にされているお香ですが、あまりにも当たり前な習慣となっており、意味や歴史を詳しくご存知ない方も多いかもしれません。
今回は、仏事に欠かせない「お香」の意味や歴史について、詳しく解説していきます。

「お香」とは

お香とは、一般的に、伽羅(きゃら)、沈香(じんこう)、白檀(びゃくだん)といった香木のほか、香りを持つ植物の葉や茎、木の実、動物性の原料などを用い、砕いたり、粉末にしたり、粉末を練り固めたりしたもので、加熱することで芳香を発するものを言います。

仏教では、線香を焚いて仏前に供えるのが一般的で、通夜や葬儀、法事といった仏事の際には、お焼香のために香木を砕いたり粉末にしたりした「焼香」「抹香」「刻み香」と呼ばれるお香が用いられます。

古くから儀式で用いられてきた「お香」

お香の始まり

お香の歴史はかなり古いと考えられており、最も古い痕跡としては、6万年も前のネアンデルタール人の遺跡から、香りの良い木を燃やして死者を埋葬したとされる跡が見つかっているようです。

また、紀元前3000年ごろの古代メソポタミアやエジプトにおいて、神に捧げるものとしてお香が焚かれ、儀式に欠かせないものであったことが分かっています。香りには、蘇りや再生、浄化などの力があり、立ち上る煙とともに天上に祈りを届けることができると信じられていたようです。

インドで広く利用されていたお香

東洋におけるお香の始まりは、現在のタジキスタンあたりに位置するパミール高原にあると考えられており、紀元前2600年ごろ、インドに伝わり広まったと言われています。
薬や食用のスパイス、臭い消しなどとして、お香や香りのある植物を用いる文化が根付いていたインドでは、酷暑の気候のもとで傷みやすくなってしまう遺体の匂いを消すためにも、お香を焚く習慣があったようです。

また、インドの文化と深い繋がりのあるヒンドゥー教の儀式でも、お香は欠かせないものであり、一説には、仏教が興るより前から、死者の魂を来世に送るためにお香を焚く風習があったとも言われています。

仏教の起こりとお香

仏教の考えと結びついたお香

紀元前5世紀後半、インドで仏教が興ると、それまで培われてきたお香の文化と仏教の考えが結びつくことで、不浄を払う、仏様へ祈りを届けるなど、修行の作法や供養につながる儀式の一環としてお香が焚かれるようになります。

お釈迦さまもお香を使っていた

仏教の経典には、「お釈迦様が瞑想の際にお香を使った」、「お釈迦様が亡くなった弟子のために香木をもって供養をした」、「お釈迦様が入滅された(亡くなった)時には、香木を用いて火葬された」などの言い伝えが残されています。これらが、仏教でお香を焚きお供えするようになった起源であるとも言われ、お香は仏教の伝播とともに中国をはじめ各地へ伝わっていきました。

日本へのお香の伝来と歴史

仏教とお香の伝来

日本でお香が使われるようになったのは、6世紀の半ば、飛鳥時代の頃と考えられており、大陸から仏教が伝来した際に、仏像や経典などと一緒に、仏様にお供えするものとしてお香が伝えられたと言われています。

「お焼香」「線香」が定着したのはいつ?

伝わった頃は、上流階級の間で仏事に使われたり、香りを楽しむために焚かれたりしていたお香ですが、だんだんと庶民の間にも広がり、仏壇やお墓にお供えされるようになっていきます。
鎌倉時代には日本で仏教が定着し、それに伴って、細かく砕いたお香を香炉に焚べる、現代につながる「お焼香」の作法が広まったと言われています。江戸時代になると線香の製法が中国から伝わり、手軽に使えるようになったということで、人々の間に定着していったようです。

お香と「香典」

お香は、故人があの世へ向かう際の道しるべとも考えられており、人が亡くなった際にお香を絶やさず焚き続けるという風習が今でも残っています。線香のなかった時代には、お香が短時間で燃え尽くしてしまい大量に必要だったため、関係者で示し合わせて持ち寄ったと言われています。
時代の変化と共にお香を持ち寄る必要がなくなり、代わりにお金を霊前に供えるようになったのが、現在の「香典」で、今でも代わりに線香を送る方もいらっしゃいます。

お香をお供えする意味

仏教では、「香」「花」「灯燭(とうしょく)」「浄水」「飲食(おんじき)」の5つを「五供(ごく・ごくう)」と呼んでお供えの基本としており、そのうち「香」にあたるのが、お焼香や線香です。仏前でお香を焚いてお供えすることは、供香(くこう、ぐこう)と呼んで大切にされ、以下のようにさまざまな意味が込められています。

仏様や故人への敬意と感謝を込めた、お供え物として

仏教には、「香食(こうじき)」といって、仏様や故人は香りを食べるという考え方があります。中でもお香の良い香りは最上の食べ物とされており、供香には「仏様や故人に敬意と感謝を込めて食事を楽しんでいただく」、「故人があの世で食事に困らないように」、「故人が極楽浄土へ行けるように」という思いが込められています。

場と心身を浄化するため

お香の良い香りや煙には、空間や心身を清めて浄化する力があると考えられています。仏前で線香を焚くことや、葬儀や法要でお焼香をすることは、手を合わせる自分自身や周囲の穢れを祓い、心身を清浄に戻して供養に専念するために重要な儀式とされています。

あの世とこの世を繋ぐものとして

仏教では、極楽浄土は良い香りに満ちているとされ、仏様は良い香りとともに私たちの前に現れると言われています。また、お香の煙によってこの世(現世)とあの世(天上・浄土)が繋がるとも言われており、供香には、故人が迷わすに極楽浄土へ行けるように、仏様や故人に祈りが届くようにという願いも込められています。

仏教の広がりや、仏様の慈悲の心を表すため

お香は、その香りが分け隔てなく隅々まで行き渡ることから、仏教の教えの広がりや、すべてのものに平等に接するという仏様の慈悲の心を表しているとも言われています。

その他、一度火がつくと途中で消えることなく燃え続け、香りを放ち続けることから、命ある限り真実を実践し続けることを表すという説。いずれ灰になり香りも消えていくことから、「諸行無常」「盛者必衰」といった仏教の教えを表すという説もあります。

ご先祖様や故人に、お墓参りに来たことを知らせるため

お墓参りの際に供える線香には、その香りと煙でお墓参りに訪れたことをご先祖様に知らせる役割があるとも言われています。

時間を測るため

仏教の教えからは離れますが、線香は燃え尽きるまでの時間が正確です。そのため、寺院などでは、お経や坐禅を「お線香一本が燃え尽きるまで」として、時間を計るために線香を使うこともあります。

まとめ

お香から生じる香りには鎮静やリラクゼーションの作用があるとされ、良い香りで包んでくれるだけでなく、気持を落ち着かせたり集中力を高めたりしてくれます。昔の人々は、目に見えずともこうした力がある香りや立ち上る煙に神聖な力を感じ、尊いものとして、亡くなった大切な人への想いや祈りを託したのかもしれません。

先祖を大切にして天に祈る心は、現代でも作法の中に受け継がれています。仏事では当たり前に使われているお香ですが、ご紹介したさまざまな意味合いを理解した上でお墓参りをしたり仏壇に手を合わせたりすることで、より一層ご先祖様や故人とのつながりを感じられるのではないでしょうか。

お墓に線香をお供えする際の作法や、お焼香のマナーについて、それぞれ詳しく解説している記事もありますので、合わせてお読みください。

お墓参りでお線香をお供えする本数に決まりはあるの?〜お線香の意味や宗派による作法・マナーを紹介〜
お焼香の正しいやり方や回数は?作法やマナーついて解説します
お墓の香炉とは?役割・種類・お手入れ方法をご紹介します