お役立ちコラム お墓の色々
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年末のお寺の行事「仏名会」とは?〜起源や心の大掃除と言われる理由、参加方法を解説〜


師走という言葉にもあるように、年越しの準備で慌ただしくなる12月。年末のお寺の行事というと、新年に向けてお寺を清める大掃除「煤払い」や、「除夜の鐘」はよく知られていますが、1年の罪を祓う「心の大掃除」とも言いわれる行事「仏名会(ぶつみょうえ)」をご存知でしょうか。
今回は、京都の知恩院や三十三間堂、奈良の東大寺などで行われている「仏名会」について、どんな行事なのか、起源や由来、参加方法などについてご紹介します。
仏名会とは
仏教では、過去・現在・未来の三世(さんぜ)それぞれに千人ずつ、合わせて三千人の仏様が現れるとされており、その仏様の名前(仏名・名号/みょうごう)を唱えながら、今年一年の様々な罪を懺悔し、滅罪生善(めつざいしょうぜん/現世の罪を消滅させ、後世の善い果報を生み出すこと)を祈るのが、「仏名会」と呼ばれる法要です。
新年を迎える前に心と身体を清めるための行事として、毎年12月上旬から中旬ごろに各地の寺院で行われています。京都の知恩院や清涼寺、東京の増上寺といった浄土宗の寺院のほか、京都の蓮華王院(三十三間堂)、奈良の東大寺、滋賀の石山寺などの仏名会もよく知られており、中には一般参加者を受け入れている寺院もあります。
仏名会の起源と由来
奈良時代の宮中行事から続く仏名会
仏名会は、奈良時代、中国から伝わった『仏名経(ぶつみょうきょう)』という経典に基づいて宮中行事として行われたのがその起源と言われています。平安時代の初め頃には恒例行事として定着し、その後全国に広まりました。
鎌倉時代頃に一度廃れたものの、その後、浄土宗を中心に復興され、現在のように各地の寺院の年中行事として受け継がれています。
仏名会に用いられる経典『仏名経』
『仏名経』は、仏様の名号が列挙されている経典で、その中には「若し善男子・善女人、諸の仏名を受持し読誦すれば、是の人は現世安穏にして諸難を遠離し、及び諸罪を消滅し、未来に当に阿耨多羅三藐三菩提(あのくたらさんみゃくさんぼだい)を得べし。」つまり、「ここにある仏名を読み上げれば、現世を平安に過ごすことができ、諸々の難を遠ざけ、罪を消し去り、将来において完全な悟りが得られる。」との教えが説かれています。
仏名経と名のつく経典はいくつもあり、仏名会が始められた当初は、一万三千にも上る仏名が収められものを読んでいたようです。しかし時代とともに変化し、釈迦如来を中心とする過去の一千仏、薬師如来を中心とする現在の一千仏、弥勒菩薩を中心とする未来の一千仏の名号が書かれた経典を合わせて、三千の仏名を唱えるのが主流になっていったと言われています。
なお、経典の中に出てくる「阿耨多羅三藐三菩提(あのくたらさんみゃくさんぼだい)」とは、仏教の代表的なお経の一つである『般若心経(はんにゃしんぎょう)』(正式には『般若波羅蜜多心経』)など多くの経典に出てくる「最上の完全な悟り」を意味する仏語で、52段階ある「悟り」の中で最高の悟りを指す言葉とされています。
仏名会では何をする?
法要は3日間通して行われるのが一般的で、三千仏画(薬師如来・釈迦如来・弥勒菩薩の周囲に千体ずつの小仏が描かれた仏画)を本尊として掲げ、『仏名経』に沿って、三千の仏様の名前を読み上げるごとに「五体投地(ごたいとうち)」と呼ばれる方法で礼拝を行うのが基本とされています。
五体投地とは、座礼のような姿勢で、両膝、両肘、額の五体を畳につけては立ち上がる、接足作礼(せっそくさらい)とも呼ばれる礼法です。全身を地面に投げ伏すという意味があり、仏教において最も丁寧とされている礼拝方法です。
この礼法を3,000回も繰り返すのは過酷であり、仏名会は自身の生き方を振り返る修行ともいえるでしょう。
「五体投地」ついては、こちらで詳しく解説しています。
◆ヨガでよく聞く五体投地(ごたいとうち)とは?仏教における最上級の礼拝方法
このように、仏名会では大変体力を必要とする礼拝を行うため、寺院によっては、1日の法要としているところ、回数を100回や1000回としているところあります。また、東大寺など一部の寺院では「千返礼拝」「千仏礼拝」などと呼び、過去・現在・未来いずれかの千仏に礼拝を行うことで3年をかけて三千仏を巡る方法をとっています。
さらに、法要に入る前に参加者が1年の反省文を書いたり、途中で参加者に対して精進料理などの接待をしたりする寺院もあるようです。
仏名会の参加方法は?
仏名会への一般参加を受け入れている寺院もあるため、参加までの基本の流れをご紹介します。
一般参加の受け入れや、参加方法を確認する
仏名会の開催方法や参加方法は寺院によって様々です。一般参加を受け入れているか、また、事前の申し込みが必要かどうか、参加費が必要かどうかなど、まずは各寺院のウェブサイトを確認し、不明な点は問い合わせ窓口に尋ねるようにしましょう。
また、宗派を問わず参加できることが多いですが、参加の条件についてもお寺によって異なるため、事前に調べておくとよいでしょう。
参加費について
無料で参加できる寺院もありますが、1,000円〜5,000円程度を参加費として納める寺院が多いようです。入山料や、浄衣(じょうえ)という衣服の貸し出し料などについても、事前に確認しておくと安心です。
服装・持ち物
繰り返す五体投地の礼拝は激しい運動となるため、動きやすい服装で、汗拭きタオルや着替えなどを用意しておくとよいでしょう。服装については、ラフ過ぎたり華美になったりしないよう心がけることも大切です。
また寺院によっては、浄衣と呼ばれる専用の衣服が必要な場合があります。自身で持っている場合には持参し、持っていない場合には貸出をしているか、事前に確認するとよいでしょう。
体力や体調を考慮する
上述のように、仏名会の礼拝は、かなりの体力を要するものですので、自身の体力や体調を考慮した上で参加するようにしましょう。一部の寺院では、椅子や座礼(五体投地より浅い礼)での参加を可能としているところもあるようです。
1年の締めくくりに、仏名会に参加してみませんか?
仏名会は、「参加したことがない」、「知らなかった」という方も多いかもしれませんが、1年の終わりに自分自身の行いを振り返るために行われてきた、伝統ある行事です。一時すたれた時期もありましたが、その後復興を遂げ、過酷な修行でありながらも一般の参加者とともに行われる寺院もあるなど、現在も長く受け継がれています。更に近年では、若い女性の参加者もちらほら見られる寺院もあり、修行体験の機会としても注目され始めているようです。
人は誰しも、怒りを覚えることや、欲深くなってしまうことなど、何かしらの「罪」を抱えて生きています。仏名会には、そうした「罪」と向き合い、仏様の教えを心に留めながら自分の愚かさを認め謙虚に生きようとする思い、慈悲の心を持ってよりよく生きようとする思いが息づいていると言えるでしょう。
年末は何かと慌ただしく、大切だと分かっていても1年を振り返る時間を作るのは難しいものです。だからこそ一度立ち止まり、静かに自分見つめなおし、心の声を聞く時間として、そして、新しい年を心穏やかな気持ちで迎えるための準備として、仏名会に参加し、年に一度の心の大掃除をしてみてはいかがでしょうか。
「マインドフルネス」という言葉も広まっていますが、仏名会のように、心身を整える瞑想や修行体験が近年注目を集めています。ヨガや滝行、座禅や写経についての記事もありますので、ぜひ合わせてお読みください。