お役立ちコラム お墓の色々

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千羽鶴に込められた意味〜お見舞い、平和祈願、供養などの祈りにつながる由来とは〜

供養・埋葬・風習コラム

「千羽鶴」と聞くと、お見舞い、応援、平和の願いなどを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。クラスメイトやチームメイトのために作ったことがある、平和に関連する施設に送ったことがある、あるいは神社やお寺に奉納したことがある、という方もいらっしゃるかもしれません。

今や平和を願う象徴として世界的にも知られるようになった「千羽鶴/Senbazuru」ですが、その由来や歴史を辿ると、日本人が受け継いできた伝統ある祈りの文化にたどりつきます。そこにはどのような意味や想いがこめられてきたのでしょうか?

今回は、千羽鶴に込められた意味やその由来、歴史について解説すると共に、千羽鶴を送る場面や注意点についても紹介していきます。

千羽鶴とはどんなもの?

千羽鶴とは、たくさんの 折り鶴を糸に通して束ねたもので、「千羽」とは「多数」を意味し、実際に1000羽でなくても、たくさんの折り鶴が束ねられたものであれば千羽鶴と呼ばれます。

千羽鶴は、病気や怪我の回復、合格や必勝などを願って送られたり、長寿、無病息災、心願成就などを願って神社やお寺に奉納されたりすることがあります。また、平和や復興、そして慰霊や鎮魂、供養の祈りを込めて、戦争や災害に関連する施設や慰霊碑などに捧げられることも少なくありません。

千羽鶴の意味と由来

「鶴」に込められた意味

「鶴は千年、亀は万年」と言う言葉があるように、鶴は昔から長寿の象徴とされてきました。これは、鶴は鳥類の中でも長生きすることに由来するとも言われています。

また、鶴は夫婦仲が良く一生連れ添うことから夫婦円満の象徴とされ、鳴き声が遠くまで届くことや空高く飛ぶことから「天に願いを届ける鳥」とも言われてきました。

このように、古くから日本においては、鶴はめでたく縁起の良い鳥、そして祈りを運ぶ鳥として古くから尊ばれ、絵画や着物の柄、装飾品などに用いられてきました。今でも婚礼やお祝いの席、着物の柄などに多く採用されています。

鶴と神仏との関わり

鶴は、日本神話や仏教ともつながりがある鳥です。 日本の神話や伝説の中には、鶴が神様のお使いとして登場するものがあり、鶴が登場する昔話も残されています。また仏教では、鶴と亀を「無量寿(むりょうじゅ/阿弥陀仏の計り知れないほどの寿命)」の象徴とする考え方もあり、特に阿弥陀如来を本尊とする宗派は寺院では、鶴と亀をモチーフにした燭台など仏具として用いられることもあります。

このようなことからも、鶴が神仏や神仏の世界と繋がりのある神聖な存在と考えられていたことがわかります。

阿弥陀仏(阿弥陀如来)を本尊とする、浄土宗や浄土真宗についても解説しています。

宗教による葬儀とお墓の違い・浄土宗編

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千羽鶴が生まれた理由〜祈りを繋ぐ形

古くからめでたく神聖な鳥とされてきた鶴は、和紙の普及や庶民への折り紙文化の広がりとともに「折り鶴」としても作られるようになり、祈願の意味を込めて寺社に奉納される風習が根付いていったようです。

やがて、その鶴が千羽揃うことはさらに縁起が良く、より強い願いを届けられるとして、千羽鶴という形が生まれたと考えられています。

折り鶴や千羽鶴を作ることは、「美しく折り整える」「見えない気持ちを形にする」という行為そのものが「祈りの時間」となり、心の整理や支えにつながることがあります。

また日本では、寺社に百回お参りする「お百度参り」や、何度も水浴びをして願う「千垢離(せんごり)祈願」、戦時中に行われた、1枚の布を千人の女性が1針ずつ縫って無事を祈る「千人針」など、数を重ねたり力を合わせたりする祈願の形が受け継がれてきました。

1羽1羽に願いを込めて折り、それらを束ねる千羽鶴は、こうした「祈りを積み重ねる」「多くの人の願いや力を合わせる」という日本人の心に息づく祈りの形を、今に伝えているといえそうです。

千羽鶴の歴史と広まり

折り紙の起源〜紙包みで気持ちを伝える「儀礼折」〜

折り紙の起源ははっきりと分かっていませんが、一説には、神様へのお供え物や贈答品の包み紙を美しく織って飾ることで、感謝や敬意を示した「儀礼折(ぎれいおり)」が元になったとも言われています。平安時代ごろに上流階級で広まった手紙などを折りたたむ習慣が、室町時代には願いや想いを伝える紙包みの礼法「儀礼折」として発展し、様々な折り方が生まれました。

現在でも、祝儀などの進物に添えられる「熨斗(のし)」(干し鮑に見立てた黄色の紙片を、紅白の紙で包んだ飾り)や、神式の婚礼で酒器に添えられる「雌蝶(おちょう)・雄蝶(めちょう)」(金銀や紅白の紙を折り水引などをつけた蝶の形の飾り)などに、その名残を見ることができます。

折り鶴の誕生

江戸時代に入ると、現代にもつながる「遊びとしての折り紙」も盛んになり、折り鶴も広く親しまれるようになりました。「折り鶴を折ると寿命が延びる」との言い伝えから折り鶴づくりが流行し、絵画や着物の柄に描かれたほか、贈り物や飾り、神仏への奉納品としても用いられたといいます。

また、一枚の紙から複数の鶴をつなげて折る「連鶴(れんづる・れんかく)」が登場したのもこの頃で、折り紙の書物では世界最古とされる『秘伝千羽鶴折形』の題名にもあるように、元は連鶴のことを「千羽鶴」と呼んでいたようです。

祈りを重ねる千羽鶴へ

現在作られるような沢山の折り鶴を糸で束ねる千羽鶴が、いつから作られるようになったかは定かではありませんが、明治〜大正時代ごろにはこの形の千羽鶴が作られ、寺社に奉納する習慣もあったと言われています。

女性に関するご利益があるとされる淡島神社や、子供の守り神と言われる鬼子母神(きしもじん)が祀られているお寺などに、女児の技芸上達祈願として捧げられていたとの記録も残っています。

戦争中には、家族が戦場から無事に帰還することを願って、また戦後は、病気や怪我をした人を見舞う意味で、折り鶴や千羽鶴を作ったり送ったりすることがあったとも言われており、一説には、前述のように、戦地での無事を祈って作られた「千人針」が、多くの人が力を合わせて祈る千羽鶴の広がりにつながったのではないかとも考えられています。

鬼子母神については、こちらの記事で解説しています。

安産や子育ての神様である鬼子母神とは?日蓮宗との関係も解説

千羽鶴に託された慰霊と平和への想い

千羽鶴が、慰霊や鎮魂の意味で捧げられ、平和や非核のシンボルとも言われるようになったのは、「広島平和記念公園」にある、少女が頭上に折り鶴を掲げている像、「原爆の子の像」のモデルとなった佐々木禎子さんの、折り鶴にまつわるエピソードがきっかけだと言われています。

佐々木禎子さんは、2歳の時に広島で被爆し、12歳(小学校6年生)の時に急逝白血病と診断されて入院。慰問の手紙と共に折り鶴が届いたことをきっかけに、鶴を折ると願いが叶うと信じて千羽以上の鶴を折り続けましたが、その年のうちに亡くなりました。

その後、同級生たちの働きにより、原爆の犠牲となった子ども達への慰霊と平和の想いを込めた「原爆の子の像」が建てられると、その実話が書籍や映画となって国内外に広まり、数多くの千羽鶴が届けられるようになりました。

こうした経緯の中で、千羽鶴は、平和や非核を願う象徴の一つとしても広く認識されるようになっただけでなく、慰霊や鎮魂、供養の祈りを届ける形としても定着していきました。現在では、戦争や災害で犠牲になった方々を悼み、各地の慰霊碑や追悼行事の場でも捧げられるようになっています。

千羽鶴を送る・飾るシーンと注意点

病気や怪我の回復を願って

千羽鶴は、鶴が幸運や長寿の象徴とも言われていることから、病気や怪我をしている人に、「早く元気になってもらいたい」というお見舞いの気持ちを込めて送られることがあります。早い回復を願う気持ちや、多くの人からの闘病を応援する想いを届けることができます。

お見舞いの千羽鶴は、「七折る」から「治る」につながるとして、700羽が良いとも言われています。また一説には、お見舞いの際には、死を連想させることを避けるために、頭部分を折り返さない(首を折らない)形で作る方が良いとも言われていますが、特に決まった折り方があるわけではない上に、頭の部分を作ることで「鶴」が完成するため、気にする必要はなく、送る側と受け取る側の気持ちが大切と考えるのが一般的です。

受験・大会などの応援や激励として

病気や怪我をしている人への応援だけでなく、試験の合格や、大会での勝利を祈願して贈られることもあります。チーム、友人、家族など関わる人たちの気持ちを届けることができ、激励だけでなく、チームの一体感などを感じられる贈り物にもなっています。

被災地・慰霊碑・追悼式など、鎮魂や平和、復興の祈りを込めて

戦争や災害などで犠牲になった方々への慰霊や鎮魂、供養の意味を込め、被災地や慰霊碑、追悼式などの場に捧げられることも少なくありません。多くの場合、平和や復興への願いを同時に届けるものにもなっています。各地から届けられるだけでなく、行事に合わせて被災地の住民によって作成されることもあります。

千羽鶴は、送る先の受け取り体制も考慮する必要があります。特に災害の被災地では、生活必需品などの支援が最優先であり、良かれと思って送ったものが衛生面や保管の観点から支援の妨げとなってしまう可能性もあるため、受け入れ先に確認する、復興が落ち着いてから送る、募金など違う形の応援にするなど、配慮することが大切です。

お寺や神社に「お礼」や「願掛け」として

日頃見守ってくださる神仏への感謝を伝え、病気平癒、家内安全、無病息災、平和や安寧などを祈願するために、お寺や神社に千羽鶴が奉納されることもあります。また、水子供養や子供の守り神とされるお地蔵様へのお供えとして用いられることも少なくありません。

寺社によっては、受け付けていないところや、奉納の方法が決められている場合があるので、事前に確認することが大切です。

水子供養やお地蔵様につてはこちらの記事で解説しています。

水子供養について解説します

お地蔵様とは〜いまさら聞けない意味や由来を解説

千羽鶴を作る際、送る際の注意点

千羽鶴は、明るい色で、見栄え良く仕上げるのが基本です。

まずは、1羽1羽丁寧に折り、破れたものは入れず向きを揃えるなど、きれいな状態で仕上げるようにしましょう。

また、色について特に決まりはありませんが、暗い印象になり死や葬儀を連想させる黒やグレー、血や火事を連想させる赤は、縁起が悪いと考える人もいるため、特にお見舞いの場面では、多用しない、または使わないようにすると良いでしょう。

送る際は、相手が受け取れる状態にあるのか、受け入れてくれる施設なのかを必ず確認するようにしましょう。心を込めた贈り物であっても、負担をかけてしまっては本末転倒ですので、自己満足ならない配慮が大切です。

まとめ

千羽鶴は、長寿の象徴として、また天に願いを届けるとされる鳥として親しまれてきた鶴にちなんだ、日本ならではの伝統ある願いと祈りの形です。

祈りの中には、病の平癒や勝利を願う気持ち、平和への願いだけでなく、亡くなった方への供養や鎮魂の思いも込められてきました。そこには、懸命に生きる、または生きた方々の幸せを祈らずにはいられない、時代を超えて受け継がれてきた人の温かさが表れているのかもしれません。

もし千羽鶴を折る機会があれば、千羽鶴の由来や、私たちの心に息づく温かな願いを思い出してみてください。きっと、より深い祈りの時間となることでしょう。

鎮魂の意味を込めた行事についても紹介しています。

また、思いのこもった千羽鶴の処分に困った時には、お焚き上げという方法がありますので参考にしてみてください。