お墓のくぼみは何のためにあるの？

墓石の手前にある小さなくぼみが、何のためにあるのかご存じでしょうか。初めて見た方は、使い道がまるでわからないかもしれません。すでにお墓のお世話をしている方でも、お線香を供えたり、ロウソクを立ててしまう方もいるようです。本記事では、お墓のくぼみの役割、意味、やってはいけないことをご説明します。使い方を間違えて、お墓参りや法要の時に恥ずかしい思いをした方もいるようです。正しい使い方や意味をぜひ覚えておきましょう。

お墓のくぼみの役割

くぼみが彫られている石の台座には「水鉢」、くぼみには「水受け」という名前があります。名前の通り、水を注いで使うものです。浄土真宗を除く仏教では、お供え物としてきれいな水を用意することが良いご供養として勧められています。お墓のくぼみは故人と仏様にお水をお供えするために用意されているものなのです。柄杓を使って、澄んだ水をなみなみと注ぐのが正しい使い方になります。

お墓のくぼみが設けられる理由「五供」とは

わざわざ墓石を加工してまで水鉢・水受けが用意されるのは、水がご供養のために大変重要なものだからです。
浄土宗を除く仏教には「五供(ごく、ごくう)」という考え方があります。五供とは、お墓や仏壇に供える5つの供物のことで、いずれも故人の供養に欠かせないものと考えられています。水鉢・水受けは五供のうちの「浄水」を供えるために、お墓に設けられているのです。

五供

香…香りがする物という意味で、主にお線香を指します。場を清める役割の他、故人と仏様をつなげることができると言われています。

花…きれいな花を供えることで、清らかな心でお参りができると考えられています。また、墓前に花を供える習慣は、お釈迦様が修業時代に出会った仏様に花を供えた逸話が由来と言われています。

灯燭（とうしょく）…火のついたろうそくをお供えすることです。暗い煩悩を払い、悟りへの道を照らすという意味があります。

浄水…仏様や故人に水を捧げる意味だけでなく、清らかな水で心を清めるという意味があります。

飲食（おんじき）…果物やお菓子を供えることです。ご先祖や仏様のおかげで自分達が生かされていることを実感し、感謝を伝えるという意味があります。

くぼみのないお墓もあります

先述したような背景があるので、宗教・宗派によっては水鉢がないお墓もあります。

神道のお墓

神道のお墓にも水は供えますが、水鉢ではなく、食べ物などと一緒に「八足台」と呼ばれる台の上に供えます。そのため、水鉢がないお墓も多いです。

浄土真宗のお墓

仏教の中でも、浄土真宗のお墓には水鉢は必要ありません。浄土真宗の教えでは、人は亡くなると阿弥陀如来の手で極楽浄土へ導かれます。極楽浄土は満ち足りた世界なので、現世の私たちがあえて水を捧げる必要はないと考えられているからです。

キリスト教のお墓

キリスト教のお墓では、そもそも水をお供えするという考え方がないので、水鉢がありません。

無宗教のお墓

先述のとおり、水を供えることは仏教徒の習慣なので、無宗教のお墓には水鉢が無い場合もあります。

また、最近増えている洋風のお墓やデザインに凝ったお墓にも水鉢が設けられていないものがあります。このようなお墓では、水鉢のかわりに故人の愛用していた湯呑や石のコップを使っているようです。

お墓のくぼみで水を供えるときにやってはいけないこと

湯呑やペットボトルを使う

水鉢が無いお墓では仕方がありませんが、水鉢があるお墓でも湯呑やペットボトルでお供えをしている方がいらっしゃるようです。これはあまりおすすめできません。湯呑やペットボトルをお墓に置いたまま帰ってしまった場合、カラスや猫などの動物にいたずらされる可能性があります。落ちて割れた湯呑や転がったペットボトルを、後からお参りに来た方や墓地の管理者が片づけてくれているかもしれません。水鉢・水受けはこうした心配がなく、お水をお供えできるものです。せっかく用意されているのですから、ぜひ水鉢・水受けを使いましょう。

水以外のものを入れる

故人が好きだったからといって、水受けにお酒やお茶を入れるのは避けてください。シミやカビの原因になり、墓石が痛んでしまいます。五供の水は、あくまで「浄水」ですので、水受けにはきれいな水をいれるべきです。お茶やお酒などを供える場合は、別の方法でお供えしましょう。
ちなみに、もし間違えてお線香やロウソクを立ててしまった場合、墓石が痛んでしまう危険があります。お線香やロウソクは墓石に直接立てずに、線香立てや燭台などを使いましょう。

お墓のくぼみの掃除方法

大事な役割のある水受けですが、実は非常に汚れやすい部分です。水垢や汚れが溜まらないように、こまめな掃除が必要です。お墓参りで訪れた際は必ず掃除するようにしましょう。
掃除の際は、柔らかい歯ブラシを持っていきましょう。タオルや雑巾では難しい水受けの隅のほうまで、きれいに掃除することができるので大変便利です。水垢を長い間放置していると、こびりついて擦ってもとれなくなってしまいますので、普段から念入りに掃除しましょう。
こびりついてしまった水垢は擦ってもなかなか落ちません。つい、タワシを使いたくなりますが、硬いもので擦ると墓石に傷がつく可能性があるのでお気をつけください。心配な方は石材店に相談してみるのをおすすめします。専用の道具や薬剤なら、きれいに落とせるかもしれません。

お墓について知ることは良いご供養へつながります

水受け一つとっても奥が深いものです。掃除がしやすく、汚れが付きにくい形もあります。素朴な疑問をきっかけに色々調べてみるといいでしょう。お墓に関する疑問を調べてみると、故人に対する思いや、ご先祖へのご供養の気持ちがより高まると思います。水受けをきれいに保ち、故人やご先祖様にきれいな水をお供えしてあげましょう。