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仏像の手のポーズには意味がある!「印相(いんそう)」の代表的な種類と意味を分かりやすく解説します

お寺にある仏像を見たとき、「どうして不思議な手のポーズをしているのだろう?」と気になったことはありませんか?
実は、あの手の形には一つひとつに深い意味があり、これを専門用語で「印相(いんそう)」と呼びます。印相は、仏様が言葉によらず「いま何をしているのか」「どんな思いや教えを伝えているのか」を示す大切なメッセージなのです。
今回は、印相とは何かということから、よく見られる代表的な印相の種類まで分かりやすく解説します。
印相とは?仏像の手の形に込められた意味
仏像の手や指で作られた独特なポーズを、「印相(いんそう)」や「印(いん)」、「手印(しゅいん)」と呼びます。密教では印契(いんげい)とも呼ばれます。
一見すると複雑なジェスチャーに見えますが、これは仏様の意思や状態(救い・誓願・説法・悟りの場面など)を表す視覚的なサインです。
印相の歴史
印相の起源は、お釈迦様が生まれた時代のインドにおいて中心的な宗教であったバラモン教の儀礼や舞踊に由来するといわれており、踊りの中で感情や言葉にできないものを手や指の形で表していたジェスチャー(ムドラー)が始まりとされています。ちなみに現在でも、その名残りで印相を英訳するとmudra(ムドラー)といいます。
本来、初期の仏教では仏像を作って拝む習慣(偶像崇拝)はありませんでした。しかし、お釈迦様が亡くなってから数百年の時を経て仏像が造られるようになった際、お釈迦様にまつわる伝説や悟りの瞬間(瞑想・説法・悪魔を退けた場面など)を分かりやすく説明するために、手の形で「場面」を表現する「印相」が生まれました。
お釈迦様が歩まれた生涯についてもっと知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
◆仏教の開祖 お釈迦様の生涯とは?8つのキーワードで簡単に解説
お釈迦様の伝説から仏教のシンボルへの移り変わりと密教の発展との関連
「お釈迦様の行いや伝説の場面の表現」から始まった印相ですが、時代が下るにつれて「邪念を取り払うこと」や「願いを聞き入れること」といった仏教思想が取り込まれていきます。
さらに、瞑想を重んじる密教の発達とともに、左右の手や指の一本一本に意味を持たせた多種多様な形が作られ、仏様の悟りの内容や役割そのものを象徴する現在の形へと発展していきました。
印相の種類
印相には非常に多くの種類がありますが、基本となるのは「釈迦の五印」と呼ばれる次の5つの手の形です。
・禅定印(ぜんじょういん)/定印 (じょういん)
・触地印 (そくちいん) /降魔印 (ごうまいん)
・説法印 (せっぽういん) /転法輪印 (てんぽうりんいん)
・施無畏印 (せむいいん)
・与願印 (よがんいん)
お釈迦様の生涯や教えに由来しており、多様な仏像に用いられています。
奈良の大仏(廬舎那仏)にもみられる右手と左手で二つの印相を表現するポーズは、日本の仏像で最もよく見られる王道の組み合わせです。
ここからは、基本となる「釈迦の五印」をはじめ、代表的な印相をご紹介します。
禅定印(ぜんじょういん)・定印(じょういん)

【意味】心が静まり返った「深い瞑想」の状態
お腹(または膝)の前で両手のひらを上に向け、上下に重ね合わせて親指の先を軽く合わせる印相です。
一般的な禅定印は、左手を下に敷き、その上に右手を重ねます。
仏教では「右手=仏様(清浄・悟り)」、「左手=人間・衆生(迷い・苦しみ)」を意味しており、右手(仏の智慧)を上に重ねることで「迷いを抑え、心を深く静める」という意味が込められています。
お釈迦様が悟りを開くために深い瞑想に入られている姿を象徴しており、目をうっすらと閉じ、微かに微笑みを浮かべる「半眼微笑(はんがんびしょう)」の表情とセットで見られることが多いのも特徴で、私たちがお寺などで座禅体験をする際に組む手元も、この禅定印です。身体と心を最も安定させ、精神を統一するのに適したポーズとされています。
阿弥陀如来が結ぶ定印(阿弥陀定印)は、親指と人差し指(または中指・薬指)で丸い輪を作る独特な形になり、釈迦如来像や大日如来像(胎蔵界・法界定印)の場合は、左手の上に右手を重ね、両手の親指の先を合わせて他の指は伸ばします。
鎌倉の大仏(高徳院)が禅定印の代表例で、一見すると普通の禅定印に見えますが、手元をよく見ると指で輪を作っており、阿弥陀定印であることが分かります。
お寺で行うイメージのある座禅ですが、実は自宅でも始めることができます。詳しいやり方は、こちらの記事で解説しています。
施無畏印(せむいいん)

【意味】人々の不安や恐れを取り除き、安心を与える
右手を胸から肩の高さまで上げ、手のひらをまっすぐ前に向け、5本指を揃えて伸ばす(あるいは軽く開く)印相です。立像でも坐像でも非常によく見られます。
文字通り「無畏(恐れがない状態)を施す」という意味を持ち、病気や老い、死といった人間が抱く不安や煩悩、恐れを取り除いて安心を与えてくれる仏様の慈悲を表しています。
お釈迦様を亡き者にしようとした者が、酒に酔わせた凶暴な象を放った際、お釈迦様が静かに右手をかざすと狂った象がたちまち大人しくなったという伝説に由来しています。
誰もが知る「奈良の大仏(東大寺の盧舎那仏坐像)」の右手が、この施無畏印を結んでいます。
与願印 (よがんいん)

【意味】人々の願いを聞き入れ、望みを叶える
左手を下ろし、手のひらをこちら側に向けながら指先を下へと向けた印相です。
坐像の場合は、ひざの上に置いた左手のひらを上に向ける形をとることもあります。
相手に与える動作を表しており、人々の願いや希望を聞き入れて叶えてあげようとする仏様の深い慈悲を示しています。
釈迦如来、阿弥陀如来、薬師如来など、さまざまな如来像で見られ、奈良の大仏の左手はこの与願印を結んでいます。
人々の願いを叶えてくれるこれらの仏様の中には、生まれ年の干支ごとに私たちを一生見守ってくださる「守り本尊」も含まれています。あなたを守護する仏様について知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
◆生まれの干支で決まる「守り本尊」あなたを守護してくれる仏様とは
触地印(そくちいん)・降魔印(ごうまいん)

【意味】悪魔の誘惑を退け、悟りを開いた強い心を証明する
結跏趺坐(けっかふざ)の状態で右手をひざの前に下ろし、手のひらを伏せて指先で静かに地面(大地)に触れる(または触れる寸前の)印相です。左手はひざの上で手のひらを上に向けておくスタイルが多く見られます。
誘惑や邪魔(魔鬼神)を退けて動けなくし、あらゆる煩悩を打ち破る強い心を象徴しています。
お釈迦様が悟りを開く直前、悪魔が「お前が悟りを開いた証拠などどこにある」と邪魔をしにきた時、お釈迦様が右指で大地を指して地の神に証明させ、悪魔たちを降伏させたという」伝説(降魔成道)に由来します。
お釈迦様がまさに悟りを開いた瞬間を表すため、指先で地面を指す「触地印」があれば、釈迦如来またはお釈迦様に代わって人々を導く未来の仏様・弥勒如来であることが多いです。
タイやミャンマーなど東南アジアの仏像では最もポピュラーなポーズですが、日本の仏像では比較的数が少ない珍しい印相です。
日本では試みの大仏(東大寺)や、深川不動堂の慈恩如来などで見ることができます。
説法印(せっぽういん)・転法輪印(てんぽうりんいん)

【意味】仏教の教え(真理)を人々に分かりやすく説いている姿
両手を胸の高さまで上げ、親指と他の指(人差し指・中指・薬指など)の先を合わせて輪をつくる印相です。
お釈迦様が悟りを開いたあと、初めて人々に説法を行った際(初転法輪)、難しい教えを語りかけるために身振り手振りを交えて熱心に説明された様子を象徴しています。
仏教の教えを車輪に例え、その「真理の車輪(法輪)」を回すことで、人々の煩悩をなくし身心を清めるという意味から、別名で転法輪印とも呼ばれます。
親指と合わせる指(人差し指、中指、薬指)や、手のひらをこちらに向けるか自分に向けるかなど、仏像によっていくつかのパターンが存在します。
お釈迦様の説法場面に由来する印相ですが、釈迦如来だけでなく阿弥陀如来像などでも用いられることがあります。
日本では比較的珍しい印相ですが、岐阜の願興寺にある釈迦三尊像、京都の広隆寺や静岡の願成就院にある阿弥陀如来坐像などが有名です。
来迎印(らいごういん)

【意味】人が亡くなる際、極楽浄土へとお迎えに来てくれる姿
右手を胸の高さまで上げて手のひらを前に向け、左手は下ろして手のひらを前に向ける形(またはその逆など)をとり、親指と他の指で輪をつくる印相です。
臨終を迎える人のもとへ阿弥陀如来が迎えに来る場面(臨終来迎)を表しており、浄土信仰・浄土教美術において重要な意味を持っています。
この印相は阿弥陀如来に用いられ、一見すると「施無畏印(右手)+与願印(左手)」や阿弥陀如来の説法印とよく似ています。違いは手元の位置にあり、説法印が両手を胸元で構えるのに対し、来迎印は両手を上下に置くのが特徴です。また、手元をよく見ると、親指と他の指(人差し指・中指・薬指など)で丸い輪を作っている点も大きく異なります。
智拳印(ちけんいん)
【意味】仏様の絶対的な最高の智慧(ちえ)を表す
結跏趺坐の状態で、胸の前で左手の人差し指を立て、それを右手で包み込むように握る印相です。その独特な手の形から、忍者の印(結印)を連想させることでも知られています。
右手(仏様の智慧)で左手(無知な人間の心)を包み込むことで、仏様と人間がひとつになり、最高の智慧を得られることを示しています。
この智拳印を結んでいる仏像は、金剛界の「大日如来(だいにちにょらい)」です。
密教の世界では、大日如来には「金剛界(こんごうかい)」と「胎蔵界(たいぞうかい)」という2つの姿があります。
・智拳印を結んでいる = 金剛界の大日如来
・法界定印(禅定印・定印)を結んでいる = 胎蔵界の大日如来
というように、手の形を見るだけで、どちらの大日如来かを見分けることができます。
馬口印(まこういん)
【意味】草を食む馬の口を表し、人々の煩悩を食べ尽くす
胸の前で両手を合わせつつ、人差し指や薬指を折り曲げ、他の指を立てて空間を作る独特な形です。
この手の形で「草をむしゃむしゃと食べる馬の口」の形を表現しています。
馬が狂ったように草を食む勢いで、人間のあらゆる煩悩や悪業を食べ尽くして立ち去ってくれるという意味が込められています。
この馬口印を結ぶのは、怒りの表情と頭上の馬が特徴的な「馬頭観音」です。
如来の印相はおだやかなポーズが多いですが、観音菩薩や明王の中には、このように動物や武器、シンボルを形作った個性的で複雑な手招き・手印が多く存在します。
如来や菩薩、明王の違いについて気になった方は、こちらの記事内で解説しています。
合掌印
【意味】仏様への深い敬意、人々と仏様がひとつになること
胸の前で左右の手のひらと指をぴったりと合わせる、私たちにとっても一番なじみ深いポーズでしょう。
右手は「仏様(清らかな世界)」、左手は「人間(迷いや苦しみのある衆生)」を表しており、両手を合わせることで「仏様と人間がひとつになり、敬いの心を捧げる」ことを意味しています。
この「仏と人の一体」を象徴する構造は、悟りに至った如来像ではあまり用いられず、観音菩薩や僧侶像、脇侍(仏様の脇に控える像)に多く見られます。
手だけじゃない!仏像の姿勢に込められた意味
仏像は、手の形(印相)だけでなく「どんな姿勢をとっているか」にも意味が込められており、仏様の「いまの状態」や「人々を救うための心構え」が姿勢にもあらわれています。
救いへと素早く駆けつける「立像(りゅうぞう)」
まっすぐ立っている「正立像(しょうりゅうぞう)」や、今にも一歩を踏み出しそうな構えなどがあり、悩んでいる人や苦しんでいる人のもとへ「今すぐ駆けつけて救おう」という仏様の強い意志や準備状態を表しています。
阿弥陀如来の来迎像(らいごうぞう)や、観音菩薩などに多く見られます。
深い思索と教えを授ける「坐像(ざぞう)」
どっしりと腰を下ろして座っている姿で、じっくりと瞑想に没頭していたり、人々に教えを説いていたりする状態を表しています。
座り方にはいくつか代表的なスタイルがあります。
・結跏趺坐(けっかふざ):両足を深く組み、足の甲を反対の太ももの上にのせる座禅の基本姿勢で、身体が最も安定する形であり、お釈迦様が悟りを開く際にとった修行のポーズです。右足が上になる組み方を「吉祥座(きっしょうざ)」、左足が上になる組み方を「降魔座(ごうまざ)」と呼びます。
・半跏趺坐(はんかふざ):片方の足(足の甲)だけを反対側の太ももにのせる、いわゆる一般的なあぐらに近い座り方です。結跏趺坐よりも少しリラックスした形であり、修行や瞑想のポーズとして広く用いられます。
・輪王座(りんのうざ):片膝を立て、その膝の上に肘をゆったりと載せる、優雅で独特な座り方です。古代インドの理想の王(転輪聖王)に由来し、絶対的な威厳と余裕、そして仏様の力によって人々の煩悩や悪を抑え込むことを意味しています。
・倚坐(いざ):古代の椅子や台座に腰をかけて脚を下ろしている姿です。すぐに立ち上がって救いに行けるような準備状態や、王者のような威厳を表します。
悟りの完成を表す「臥像(がぞう)」
横になってごろんと寝そべっている姿です。
・涅槃像(ねはんぞう):右側を下にして横たわっている姿が一般的です。お釈迦様が80歳で生涯を閉じ、全ての束縛から解放されて「入滅(息を引き取る)される最後の瞬間」を表しています。日本では比較的珍しいですが、タイや東南アジアのお寺で巨大な金色の像(寝釈迦仏)としてよく見られます。
お釈迦様が横たわった「臥像」の由来でもある、入滅の日を偲ぶ行事「涅槃会(ねはんえ)」をご存知でしょうか?涅槃会の詳しい意味やお寺での過ごし方については、こちらの記事でご紹介しています。
◆涅槃会(ねはんえ)とは?涅槃図の解説やお寺でやることも紹介
仏様の慈悲に触れる時間
一見すると難しく思える印相ですが、そこには「人々を安心させたい」「願いを叶えたい」といった仏様の優しさや想い、深い教えが込められています。
印相や姿勢の意味を知ると、仏様がどのような想いで私たちに向き合っているのか、その背景にあるストーリーが見えてきます。
仏様の慈悲に触れる時間は、ご先祖様や故人を思い返し、供養の意味を見つめ直すきっかけにもなります。
お寺や美術館で仏像を目にした際は、ぜひ手元や姿勢にも注目してみてください。
仏様の込められた想いや役割を知ることで、お寺へのお参りや仏教の世界がより身近に、味わい深く感じられるはずです。
仏像の手の形・印相と同じように、仏様や神様を文字で表すものを「梵字(ぼんじ)」といいます。梵字の意味とご利益はこちらの記事で解説しています。
◆梵字の持つ力とは?意味や神仏を示す梵字を宗派別・ご利益別にご紹介します
「お寺と深く関わるってどういうこと?」「檀家になると何が変わるの?」「寺院墓地って何が違うの?」と疑問をお持ちの方へ、お寺との付き合い方の基本である「檀家」、お寺が管理している寺院墓地について、こちらの記事でご紹介しています。併せてお読みください。