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一度は見ておきたい重要文化財シリーズ・奈良の旅編・その7

供養・埋葬・風習コラム

一度は見ておきたい重要文化財シリーズ・奈良の旅編・その7

日本では、国内にある建造物、美術工芸品、考古資料、歴史資料等の有形文化財の中で、歴史上・芸術上の価値が高いもの、または学術的に価値の高いものを、文化財保護法に基づき重要文化財として指定、保護しています。

全国各地にある石仏や石塔の中にも、重要文化財や自治体の指定を受けているものがいくつもあり、その所有者や地域の人々によって、石仏や石塔に込められた想いや由来が語り継がれてきたことで、今もなお私たちに歴史や文化の息吹を感じさせてくれます。

今回は「一度は見ておきたい重要文化財シリーズ」と題し、歴史的価値、学術的価値の高い石仏や石塔をご紹介し、その魅力に迫っていきます。

観光情報も添えていますので、ぜひ実際に足を運んでいただき、その雰囲気を肌で感じ、目で愉しみ、心で歴史に触れてみてはいかがでしょうか?

一度は見ておきたい重要文化財シリーズ・奈良の旅編・その7

般若寺 十三重石塔(奈良県奈良市般若寺町)

般若寺(はんにゃじ)は、奈良県奈良市般若寺町にある真言律宗の寺院です。飛鳥時代に高句麗(こうくり)の慧灌(えかん)法師によって開かれました。都が奈良に遷った天平7年(735年)、聖武天皇が平城京の鬼門を守るため『大般若経』を塔の基壇に収め卒塔婆を建てたことが、寺名の由来とされています。
その般若寺境内の南側、本堂の正面に巨大な石塔が建っています。これが般若寺十三重石塔です。

層塔とは

三重、五重、七重などの仏塔のことを「層塔(そうとう)」と言います。同じ階(屋根・笠)を何重(層)にも重ね、一番上の屋根の上に相輪を立てたものです。

層(重)数は奇数が原則で、石造の場合は三・五・七・九・十三重塔と各種あります。平面は四角が一般的ですが、六角・八角・円形のものなど様々です。層塔は多層塔・多重塔・多簷(たえんとう)ともいわれ、屋根と塔身の間隔の多いものや、第一層の塔身だけが高く、第二層からは屋根(笠)だけが積み重なっているのもあります。

般若寺 十三重石塔の特徴

般若寺十三重石塔は花崗岩製で、高さは14.2mあります。鎌倉時代に東大寺再建の石工事にも従事した、宋人・伊行末(いのゆきすえ)一派の代表作です。

昭和39年(1964年)の解体修理の際、第四層の軸部から「宋版法華経」が発見されました。その宋版法華経を納めていた木箱の身の方に、「口長五年、癸丑、卯月八日奉籠之」の墨書があり、ここから建長5年(1253年)の造立であることがわかりました。

初層の軸部の各面には、二重円光を背にして蓮華座に坐す顕教四仏(西面:阿弥陀如来、北面:弥勒如来、東面:薬師如来、南面:釈迦如来)が面いっぱいに彫られています。


初層軸部の上端に方形の納入孔があり、その中から金剛舎利塔・金銅五輪塔・水晶五輪塔が発見されています。また、第四層塔内からは宋版細字法華経とそれを納めた木箱、第五層塔内からは銅製如来像と仏像他、第八層塔内からは銅造十一面観音、江戸時代の木造仏・経巻・曼荼羅など多数の納入物が発見されています。

現在の相輪は、後年取り付けられたもので、当初の相輪は十三重石塔の横に置かれています。なお、当初の相輪は、昭和の初め頃に、旧境内地を分断して通された国道の開削工事中に発見されました。

歴史

治承4年(1180年)、平重衡により南都焼討がおこなわれた際には、東大寺、興福寺などとともに般若寺も焼け落ち、その後しばらくは廃寺同然であったといわれています。

その後、宋人石工・伊行末が、南都焼討により焼け落ちた東大寺の大仏殿再興工事の修復を進めていくのですが、当初、日本の花崗岩は硬いため彫刻に不向きとされ、伊行末は母国 である宋から軟質の石材を取り寄せて、作品を作りました。東大寺石獅子等がその代表です。

その後、伊行末一派は、日本産の硬い花崗岩を素材にして、日本的な形式である大蔵寺十三重石塔や般若寺十三重石塔を造立します。中でも般若寺十三重石塔は、その金字塔ともいえる作品で、これ以降、花崗岩を用いた多数の作品が作られるようになり、石造美術の全盛期を迎えることになるのです。

なお、般若寺十三重石塔は、明治35年(1902年)4月17日に、国の重要文化財に指定されました。

周辺の観光情報

般若寺は「コスモス寺」として親しまれており、境内にある約15万本20種類のコスモスは、9月下旬~10月下旬ごろに見頃を迎えます。日ごろなかなか目にすることのない珍しい品種のコスモスを見ることも可能です。
また、2021年の秋から新たに「コスモスグラスキューブ」が境内に設置されました。これは水を入れたキューブ状のガラスの中に、色とりどりのビー玉やガラスの石を沈め、その上にコスモスの花を浮かべたもので、平日でも1日に1000人以上の参拝者が訪れるなど、人気のスポットとなっています。

※新型コロナウイルス感染症の影響等で、拝観時間等が変わる場合がございます。
 拝観の際は情報を事前にご確認の上お出かけくださいませ。

般若寺への交通アクセス

<鉄道&バス>
JR奈良駅、または近鉄奈良駅から
州見台八丁目 (奈良阪)・青山住宅行バス乗車 約12分
「般若寺」停留所下車 徒歩5分

<自動車>
京奈和自動車道 木津ICから県道754号経由 約9分

一度は見ておきたい重要文化財シリーズ・奈良の旅編・その7

大野寺 弥勒磨崖仏(奈良県宇陀市室生大野)

大野寺(おおのでら/おおのじ)は、奈良県宇陀市室生大野にある真言宗室生寺派の寺院です。宇陀川沿いの景勝の地にあり、伝承では白鳳9年(681年)、役小角(えんの おづの)(役行者/えんの ぎょうじゃ)によって草創され、天長元年(824年)に空海(弘法大師)がお堂を建立して「慈尊院弥勒寺」と称したとされています。
この大野寺から宇陀川をはさんだ対岸にあるのが弥勒磨崖仏(みろくまがいぶつ)です。

大野寺 弥勒磨崖仏の特徴

高さ約30mの安山岩の岩壁に、二重円光背を彫りくぼめ、内部を水磨きして、踏割蓮華座(ふみわりれんげざ)上に立つ像高13.6mの弥勒如来像が刻まれているのが大野時 弥勒磨崖仏です。笠置寺の本尊である弥勒磨崖仏を模して造立されました。

そして、磨崖仏の左側下方には鎌倉時代前期のものとされる尊勝曼荼羅(そんしょう まんだら)が刻まれています。尊勝曼荼羅は、滅罪・延命・出産・祈雨などを目的として修行される密教の修法の1つ・尊勝法の本尊のことです。


大円内部の中央月輪内には金剛界大日如来の種子(しゅじ=梵字)「バン」を、周囲に八大仏頂の種子を月輪内に刻んでいます。なお仏頂とは「仏頂尊」のことで、仏頂尊とはお釈迦様の頭上(仏頂)に宿る広大無辺の功徳から生まれた仏のことで、不機嫌な顔つきを意味する「仏頂面」の語源となったものです。

その他、月輪の外の下部、向かって左には三角形の彫りくぼめをつくり、内に不動明王の種子「カーン」、右に半月形の彫りくぼめをつくり内に降三世明王の種子「ウーン」を刻んでいます。上部にも梵字が刻まれた様子がありますが、磨滅しています。

歴史

大野寺 弥勒磨崖仏は、興福寺の雅(がえん)大僧正が、笠置寺の本尊である弥勒磨崖仏を模して造立することを発願し、承元元年(1207年)10月に着工、翌2年(1208)10月に完成しました。造立にあたっては、宗慶という工人が彫り始め、宋人石工の二郎、三郎、五郎、六郎、七郎、八郎が共に彫造したと伝わり、般若寺 十三重石塔を建てた宋人石工・伊行末も、そのなかの一人といわれています。承元3年(1209)3月7日の開眼供養には、後鳥羽上皇も臨席しました。

なお、大野寺 弥勒磨崖仏は昭和9年(1934年)11月10日に、国の史跡に指定されました。

周辺の観光情報

大野寺は桜の名所としてもしられています。早咲きの桜と遅咲きの桜が順に咲くため、長い期間花見を楽しめるのが特徴です。全国的にも珍しい品種である樹齢約300年のコイトシダレザクラの古木2本と、ベニシダレザクラ10本が境内に咲き乱れています。この2本の桜は、室生川の上流にある「西光寺」の城山之桜が親木だとされており、桜の種が、宇陀川から流れ着き芽吹いたものと言われています。

大野寺 弥勒磨崖仏への交通アクセス

<鉄道>
近鉄 室生口大野駅 下車 徒歩7分

<自動車>
名阪国道 針ICから、国道369号 と 県道28号を経由、約14分

まとめ

今回ご紹介した石塔と石仏は、奇しくも宋人石工・伊行末がその造立や彫造に関わっていたものです。当初は硬い花崗岩に苦戦しながらも、大陸から伝わった技術が日本でさらに発展し、石造美術の全盛期へと繋がっていきます。

古の石造美術の金字塔ともいえる作品が、今もなお大切に受け継がれている古都・奈良。ぜひ現地に足を運び、季節の美しい花々で彩られた景色と共に、歴史とロマンを感じてみてはいかがでしょうか。

なお、奈良県内には他にも歴史的価値、学術的価値の高い石塔があり、過去の記事では下記の石塔をご紹介しています。こちらもあわせてお読みください。

一度は見ておきたい重要文化財シリーズ・奈良の旅編
・当麻北墓五輪塔
・東大寺 伴墓三角五輪塔

一度は見ておきたい重要文化財シリーズ・奈良の旅編・その2
・西大寺奥の院五輪塔
・長岳寺五輪塔

一度は見ておきたい重要文化財シリーズ・奈良の旅編・その3
・西方院五輪塔
・室生寺五輪塔

一度は見ておきたい重要文化財シリーズ・奈良の旅編・その4
・不動院五輪塔
・不動院宝篋印塔

一度は見ておきたい重要文化財シリーズ・奈良の旅編・その5
・額安寺五輪塔群
・額安寺宝篋印塔

一度は見ておきたい重要文化財シリーズ・奈良の旅編・その6
・来迎寺石造宝塔
・来迎寺五輪塔群