お役立ちコラム お墓の色々

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五山送り火やねぶた祭りも!全国のお盆の行事を紹介◆迎え火・送り火編◆

供養・埋葬・風習コラム

夏の夜、静かに揺れる火の灯り。お盆の時期に行われる「迎え火」「送り火」は、ご先祖さまをお迎えし再び見送る、日本ならではの夏の風物詩です。

お墓や玄関先で火を灯す家庭の風景も馴染み深いものですが、地域の伝統行事として大規模に行われる迎え火・送り火も、それそれの土地で大切に受け継がれてきたお盆の風景です。「五山送り火」や「ねぶた祭り」、各地で行われている「灯籠流し」など、火にまつわる有名な行事をご覧になったことがある方、実際に参加されたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、そんな迎え火・送り火の起源や意味に触れながら、各地の迎え火や送り火の意味合いを持つ行事をご紹介します。

迎え火・送り火に込められた意味

お盆の迎え火・送り火とは、あの世から帰ってくるご先祖さまの精霊(しょうりょう)を迎え、供養したのち再び送り出すための儀式です。

迎え火には、精霊が帰ってくる際の目印や、家まで導くという役割が、送り火には、しっかりと見送っているという証のほか、途中で迷わないようあの世までの道のりを照らす役割があるとされ、それぞれ、あの世とこの世を繋ぐ、ご先祖さまの道標の意味合いで行われてきました。

昔から、火には霊を鎮める力があり、また結界にもなると考えられており、ご先祖さまの霊が安心して行き来できるようにとの意味合いも込められているようです。

迎え火・送り火の始まりと歴史

迎え火・送り火の起源

お盆の迎え火・送り火の起源は明確にはわかっていません。しかし、日本には古くから火を神聖なものとする文化があり、神仏への祈りを届ける、先祖の霊を慰め・鎮め・導く、厄災を祓い浄化するなどの力があるとして、神事や儀式の中で重要な役割を果たしてきました。

また、正月や秋の初めに、山や川から先祖の霊を迎えもてなし再び送り出すという古来の風習も存在していたと言われています。

こうした日本の祖霊信仰や火を用いた神事が、お盆の起源である仏教の盂蘭盆会(うらぼんえ)と重なり合い、迎え火・送り火の風習が形づくられていったと考えられています。

お盆と、火や灯りの歴史

迎え火・送り火の起源は、はっきりとは分かっていませんが、平安時代にはすでに貴族の間で盂蘭盆会の法要が営まれ、仏前に灯明をともしながら先祖の精霊を供養する習慣が見られるようになっていました。

武士や庶民にも仏教の教えが広がりを見せた鎌倉から室町時代には、先祖の精霊を迎え供養し、再び送り出すという考え方が定着しはじめます。精霊が帰ってくるための目印や供養の意味を込めて、灯籠や提灯が用いられるようになったのも、この頃だとされています。

江戸時代に入ると、お盆の行事は年中行事のひとつとして庶民にまで浸透し、迎え火・送り火は、お墓や玄関先で行う家庭行事として根づいていきました。ろうそくの普及に伴い、灯籠や提灯も広く使われるようになります。

この頃には、大文字焼きのような山の送り火や、万灯会(まんどうえ)とも呼ばれる灯籠を用いた送り火など、地域や寺院による供養の行事も行われていました。また、各地で営まれてきた、五穀豊穣や無病息災、疫病退散などを祈る地域独自の行事や風習が、迎え火や送り火と結びつきながら発展したものもあり、新たな祭りや行事として各地に根づいていきました。

こうした流れのなかで形作られた多くのお盆の行事は、現在も夏の風物詩として受け継がれており、今に続く地域のお盆行事や夏祭りの原型になっていると言われています。

迎え火・送り火の様々な形

一口に迎え火・送り火の行事といっても、松明(たいまつ)を使うもの、灯籠や提灯を使うもの、山で火を焚くもの、灯りを水に流すものなど、その形は様々です。由来や歴史と合わせてご紹介していきます。

迎え火の行事(御招霊・御精霊/おしょうれい・おしょうらい)

迎え火の行事として知られるのが、石川・富山など北陸の一部地域に残る「御招霊」です。大きな柱松明に火をつけたり、火のついた松明を振り回したりして精霊を迎える行事で、この時期には、火をつけて振り回すための「御招霊棒」と呼ばれる松明が花屋やスーパーなどに並びます。川べりで行う地域もあり、三途の川を迷わず渡れるように川面を照らすという意味合いもあるとされています。

松明を用いた供養の行事(柱松・火揚げ・火ふり祭)

同じく松明を用いた行事で、迎え火にとどまらず、送り火や供養の意味合いで行われるものもあります。

和歌山・兵庫・山口・鹿児島などの一部地域で行われているのが、火のついた松明を、柱の上に麦藁を詰めた竹籠などを据えた柱松めがけて投げ上げる、「柱松(はしらまつ・はしたまつ)」や「火揚げ」と呼ばれる行事です。滋賀県日野町に伝わる「火ふり祭」では、松明を持って町を練り歩いた後、その松明を木の上に投げ上げます。兵庫県姫路市の破磐(はばん)神社には、「奉点燈祭(ほうてんとうさい)」と呼ばれる、火のついた松明で地面や互いの体を叩き合い火の粉を浴びるという、全国的にも珍しい神事が受け継がれています。これらはもともと、無病息災や五穀豊穣の祈願、雨乞いなどを目的とした神事でしたが、お盆の行事と結びつき、先祖の霊を供養する意味合いを併せ持つようになったと考えられています。

灯籠祭り・竿燈祭り

青森「青森ねぶた祭」や石川「石崎奉燈祭」、秋田「秋田竿燈祭り」なども、実は迎え火や送り火にルーツを持つ行事です。

お盆に仏壇や玄関先で灯されていた、灯籠(あんどんの形をした切り子灯籠)や提灯ですが、次第にその数や大きさ、華やかさなどを競うようになり、また、地域に伝わる厄除けなどの行事と結びついて、大きな祭りへと発展したといわれています。

萬灯会・万灯会(まんどうえ)・万灯籠(まんどうろう)・燈花会(とうかえ)

お盆の時期に、全国の寺社を中心に開催されるのが、「萬灯会」、「万灯籠」、「燈火会」などと呼ばれる行事です。たくさんの灯籠やローソクを灯して精霊の供養を行うもので、京都の五山送り火などの原型とも言われています。

近年では、災害で亡くなった方々を悼み、竹灯籠を灯す新たな形の行事も広がりを見せています。また、家庭で使わなくなった盆提灯をあつめ、一同に灯す山口県宇部市浄明寺の「盆ちょうちんまつり」など、時代に合わせつつ伝統を受け継ぐ新たな試みも生まれています。

山の送り火(大文字焼き・五山送り火)

日本古来の山を神聖視する山岳信仰や、先祖の霊が山に宿り子孫を見守るという祖霊信仰がお盆の行事と結びついたと考えられているのが、京都の「五山送り火(ござんのおくりび)」に代表される、山肌に大きな文字や形を灯す送り火です。現在では、奈良や箱根など京都以外の地域にも広まっています。

福島県や埼玉県の一部地域では、子どもたちが中心となり、山や堤防で108の火を焚く「百八灯(ひゃくはっとう)」と呼ばれる送り火の行事も伝えられています。また、お大師様空海生誕の地である香川県でも、お大師山と呼ばれる虚空蔵(こくうぞう)山に108の松明を灯す祭り「お大師山の火祭り」が開催されています。

お大師さん、お大師様、弘法大師空海についてはこちらに詳しい記事があります。興味のある方はあわせてお読みください。

◆弘法大師・空海は何をした人?空海の誕生を祝う「弘法大師降誕会」とは?

水に流す送り火(灯籠流し・精霊流し)

火を灯すだけでなく、水に流すことで精霊を送る行事もあります。今や、全国の多くの地域で開催されている「灯籠流し」は、一部の地域にあった行事が、戦没者の慰霊のために行われたことをきっかけとして各地に広まったと言われています。また、長崎をはじめ佐賀や熊本の一部地域で行われている「精霊流し」は、藁や木で作った精霊舟に精霊を導く提灯やお供え物を載せて海に流します。これらの行事は、一説には中国で行われていた供養や弔いの行事が起源になっているとも言われています。

花火大会

江戸時代から広まった花火大会は、儚さと鎮魂の思いを重ね、次第に供養や平和祈願の意味も込められるようになった行事です。現在では、戦争や災害による犠牲者の慰霊や、ご先祖さまの供養のための花火大会も多く開かれています。灯籠流しや盆踊りなどのお盆の行事と組み合わせて開催されることもあり、天へ祈りを届ける送り火の一つとも捉えられています。

花火の起源や、鎮魂・供養の心とのつながりなどについては、こちらの記事もお読みください。

花火の起源を探る〜打ち上げ花火に込められた鎮魂の想い〜

迎え火・送り火の意味を持つ全国の行事「5選」

全国各地で発展し受け継がれてきた、迎え火・送り火の意味を持つ行事から、代表的な5つを紹介していきます。

① 五山送り火(京都府京都市・毎年8月16日)

京都の名物行事となっている「五山送り火(ござんのおくりび)」。京都の街を囲む山々に「大文字」「妙法」「船形」「左大文字」「鳥居形」という5つの文字や形に火を灯す伝統的な送り火で、「だいもんじやき」とも呼ばれて親しまれています。起源についてははっきりしていませんが、平安時代から室町時代にかけて、様々な形で送り火が行われていたことが伝えられており、一説には、戦国時代に盛んに行われた「万灯会」が次第に、山腹で行われるようになったとも言われています。国内外から10万人余りの観光客が集まるとも言われ、夜空に文字が大きく浮かび上がる光景は圧巻です。

② 青森ねぶた祭り(青森県青森市・毎年8月2日〜7日)

青森ねぶた祭は、故事や神話の登場人物などを模った迫力のある巨大な灯籠「ねぶた」が街の中を練り歩き、「ラッセラー」の掛け声が響く、全国でもその名を知られる有名な祭りです。起源は諸説ありますが、眠気(ねむた)を追い払い厄災を水に流す七夕の行事にあるとも言われ、津軽に伝わる虫送りや盆踊り、送り火などが融合し発展してきたと言われています。コロナ禍では、オンライン参加などの新しい形で危機を乗り越えるなど、時代の変化を捉えながらも、古くからの伝統を今に伝えています。

③宮津灯籠流し花火大会(京都府宮津市・毎年8月16日)

宮津灯籠流し花火大会は、日本三景の一つ「天橋立(あまのはしだて)」で有名な宮津市で開かれる、伝統的な海の灯籠流しです。日本三大灯籠流しにも選ばれているこの行事の起源は、江戸時代にまで遡り、先祖の精霊を送るために、お供え物に燈りを添えて海に流したのが始まりとされています。大正13年(1924年)には、鉄道(宮津線)開通を記念して花火が打ち上げられるようになりました。精霊船と約1万個の紅白の追っかけ灯籠が海面を、花火が上空を彩り、幻想的な光景が広がります。

④ 熊野大花火大会(三重県熊野市・毎年8月17日)

三重県は熊野灘を舞台にした迫力満点の熊野大花火大会。全速力で走る2隻の船から火の付いた花火玉を次々と海に投げ込む「海上自爆」や、世界遺産「鬼ヶ城」の岩場や洞窟を利用した仕掛花火「鬼ヶ城大仕掛け」などは迫力満点で、多くの人々に人気の高い海上花火大会です。その起源は250年〜300年前とも言われ、故人にとって初めてのお盆(初盆)における初精霊供養として花火打ち上げ、その火の粉で灯籠焼きを行ったのが始まりとされています。約一万発の花火が打ち上げられる大規模な行事へと発展した現在でも、初精霊供養の伝統に習い、初盆の家庭合同の精霊追善花火と灯籠焼きが行われ、故人を供養するお盆の姿を今に残しています。

⑤ 長崎精霊流し(長崎県長崎市・毎年8月15日)

長崎のお盆の夜を彩る伝統行事、長崎精霊流し。「初盆を迎える故人の霊が無事に極楽浄土までたどり着けるように」との願いを込めて、各家や町で作った精霊船に供え物を乗せて街を練り歩き、川や海に流します。精霊船には、供養の意味を込めて提灯や花飾りも飾られます。歌手さだまさしさんのヒット曲『精霊流し』を聴いて、静かな灯籠流しを想像する方もいますが、実際は爆竹や鐘の音が鳴り響く、賑やかでエネルギッシュな行事です。江戸時代に唐人屋敷に住む中国人が行った、「彩舟流し」という弔いの行事が起源と言われ、国際色豊かな長崎らしい送り盆の行事となっています。

火に込めた祈りとつながる心

日本には、火にまつわる行事や祭りが、今も数多く受け継がれています。

なかでも、お盆の迎え火・送り火には、ご先祖さまへの感謝や「あの世でも安らかに」という祈り、目には見えない存在と心を通わせようとする思いが込められてきたと言えるでしょう。

時代や地域によって形を変えながらも、火はいつの時代も、私たちの暮らしのそばにありました。だからこそ、言葉にならない想いを形にして届ける力があると信じられてきたのかもしれません。

今年のお盆は、火のぬくもりやゆらめく灯の美しさとともに、ご先祖さまへも思いを馳せて、祈りを捧げてみてはいかがでしょうか。

全国の「盆踊り」の行事についても、こちらでご紹介しています。

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